投手陣が質量ともにそろっていると……
黄金時代の西武には“真のエース”と呼ばれる投手はいなかったように思う。例えば
工藤公康、渡辺久信、
郭泰源、
石井丈裕、渡辺智雄がいたころ。とにかく高いレベルの投手がそろっていた。
あのころ、近鉄戦で
金村義明がよくぼやいていたのが思い出される。金村はサードを守っていたのだが、サードコーチャーの私に「勘弁してくださいよ。西武は出てくる投手がすべていい。ヨソとの対戦で打率を上げるんですけど、西武と戦う3試合でグンと下がりますよ」とよく言っていた。
それほど投手の質が高かったのだが、だからこそどこか「オレが打たれても誰かが抑えてくれる」という意識が各投手に働いていたような気がする。きっと「自分がエースだ」と思っている投手もいなかっただろう。
そう考えると、両雄並び立たずではないが、能力に優れた投手がそろっている投手陣には“真のエース”は生まれづらいのかもしれない。逆に投手陣に難があるチームのほうが、“真のエース”は誕生する確率が高いのだろう。
例えば
平松政次、
松岡弘。大洋と
ヤクルトは当時、弱いチームで彼らが孤軍奮闘しなければいけない状況だった。「オレがやらなければ」と使命感に燃えて投げ続けた。すると、自然に“真のエース”としての意識が芽生えるのだろう。
現在好調だが、西武の
菊池雄星にはそれが感じられる。昨年、
岸孝之がFAで
楽天へ移籍。外国人を抜かせば先発で実績があるのは自分一人になってしまった。それで自覚も増したのだろう。チームのために勝利をつかむという意識が大きく感じられ、最多勝、最優秀防御率のタイトルを獲得。充実したシーズンを送った。
今年も自覚は十分。しかし、“真のエース”とはまだ言えない。昨年までのプロ8年間で
ソフトバンクから勝ち星を挙げていない。王者に勝って、チームを優勝に導いてこそ、“真のエース”と呼ばれるのだろう。
写真=BBM