誰よりも投げ、誰よりも勝つ
私が最初に西武の監督を務めていたころ、やはりこれぞ“真のエース”だと思ったのは松坂大輔(現
中日)だろう。1999年の入団以来、3年連続最多勝。誰よりも投げ、誰よりも勝利を稼ぎ、押しも押されもしない“真のエース”となっていた松坂。私が監督に就任した2002年も、開幕から6連勝と好調なスタートを切った。
しかし、前年秋からカットボールを習得しようとしたことが影響したか、5月中旬、右ヒジを痛めて戦線離脱。8月に一軍復帰したが、本来のピッチングには程遠く、再び二軍調整をなってしまった。
西武はリーグ優勝を果たして
巨人と日本シリーズを戦うことになった。さて、初戦を誰に託すか。当時の巨人打線は超強力だった。ラインアップに並んでいた名前はこうだ。一番・
清水隆行、二番・
二岡智宏、三番・
高橋由伸、四番・
松井秀喜、五番・
清原和博、六番・
阿部慎之助、七番・
元木大介、八番・
仁志敏久。錚々たる顔ぶれが並んでいる。これを封じ込めるには松坂しかいないと思った。幸い、日本シリーズ初戦の12日前、10月14日の
ロッテ戦(千葉マリン)で4回2失点ながら、松坂は手応えのあるピッチングをしていた。
結果的に松坂は初戦(東京ドーム)、清原に一発を浴びるなど3回4失点。3連敗して迎えた第4戦(西武ドーム)でもリリーフ登板して2回4失点でいずれも負け投手になり、西武も日本一を逃したが、松坂の起用法に関して悔いはない。“真のエース”とは、監督に「こいつでやられたら仕方がない」と思わせるような存在なのである。
現在の球界にも“真のエース”への成長を期待してしまう若手投手は数多くいるだろう。“真のエース”のピッチングとともに、そこへ上り詰める若手の成長過程も楽しんでいきたい。
写真=BBM