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【MLB】4人の外野陣も!データ重視の時代にはフロントと現場の融合が不可欠

 

大学で心理学を学んだアストロズのヒンチ監督はデータを重視しフロントと二人三脚で世界一をつかんだ。これが今後の主流になりそうだ



 アストロズが開幕のレンジャーズ戦で、左のパワーヒッターのジョイ・ギャロを打席に迎えると、三塁手のアレックス・ブレグマンをレフトの位置まで大きく下げ、4人目の外野手とし、ほかの3人をライト側にずらした。

 二塁ベースより左側は、内野が空っぽになったシフトはすごかった。左側にうまく転がせば二塁打になる。だがギャロは初回一死走者なしで、左飛を打ち上げた。アストロズのAJ・ヒンチ監督は2年くらい前から、4人の外野手のアイデアを口にし、この春のキャンプでローガン・モリソンやマット・アダムスなど左のパワーヒッターを迎えると実験していた。

「インチキな仕掛けではない。普通の守備シフトと同じで、一番打球が飛びそうなところを守る。ヒッティングチャートを見れば、まず飛ばないエリアがあって、そこには野手を置きたくない」と説明した。

 スタンフォード大で心理学を学んだヒンチ監督は心理的な効果も見込んだ。「どれだけ打者にとって気に障るか。打者がスイングを変えようとして、反対方向に打とうとすれば狙い通り」と言う。この試合、ギャロはほかの打席でもバントは試みず、外野フライを打ち上げ続けた。試合後地元紙の取材に「今後はバントも考えるが、長く野球をやってきてバントには慣れていない。観ている人は転がせと言うだろうけど、そんなに簡単ではない」と悔しがっている。

 それにしても、細かいデータを生かし新しい発想で戦うヒンチ監督の野球は興味深い。先のワールド・シリーズのブルペン起用もフレキシブルで、マッチアップやゲーム状況に応じて変えていった。とはいえ、かつては監督失格の烙印(らくいん)を押された人物である。1996年のドラフト3巡指名捕手で、戦績は7シーズンで打率.219、32本塁打。引退し2006年ダイヤモンドバックスのフロント入り、マイナーの育成部長となっていたが、09年5月ジョシュ・バーンズGMに監督に抜てきされた。

 当時、この人事は物議を醸した。なぜならヒンチが監督コーチ経験がゼロだったからだ。長い間、MLBで監督になりたければマイナーから叩き上げるのが普通。加えてフロントが25人の選手を集め、監督が現場の陣頭指揮をとるという役割分担が明確で、互いに干渉しなかった。だがバーンズGMの狙いは、フロントと現場が一緒に戦う新体制づくり。

 今ではドジャースなどで成功しているが、当時は初の試みだった。壁をなくし二人三脚で新しいアイデアを試す。しかしながら新しい試みはすぐには結果がでないものだ。2シーズンにまたがって89勝123敗と負けが込み、オーナーの堪忍袋の緒が切れ、1年2カ月で解雇された。その後ヒンチはパドレスのGM補佐を経て、14年9月、アストロズのジェフ・ルーノウGMに2度目のチャンスをもらった。ルーノウGMもデータや新しい発想を重視するタイプ。2人は最高のパートナーとなり、3年で世界一の座を掴んでいる。

 先のオフ、監督コーチ経験のないアーロン・ブーンがヤンキースの監督に抜てきされたように、今ではこの体制の方が主流である。フロントと現場の壁は取り払われ、今後は4人の外野手のような新しい戦い方がさらに試されていくのだろう。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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