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【MLB】出塁率重視から「wRC+」などの指標重視へ変更し快進撃中のレッドソックス

 

出塁率重視の方針から転換し一番打者・ベッツにもそれに合わせたことで得点力も格段に上がった


 少し前の話になるが、現地時間4月18日、レッドソックスの一番打者、ムーキー・ベッツが大谷翔平からの初回先頭打者本塁打を始め3本塁打で、チームも10対1と快勝。翌日、アレックス・コーラ新監督は「いい野球ができている。選手がデータをうまく利用しているし、もっとデータをと望んでいる。それが素晴らしい」とご機嫌だった。

 その時点で15勝2敗と開幕ダッシュ成功である。レッドソックス打線は昨季、得点数10位、本塁打数27位とパワーに欠けたのが弱点だった。それが今季は始まったばかりとはいえ、得点数1位、本塁打数8位である。JD・マルチネス以外のメンバーはほぼ同じ。何が起こっているのか? 大きな違いはデータに基づいたアプローチの変化だ。

 レッドソックスは長年、ボールを見ていくチームだった。四球を選び、出塁率を上げる。先発投手にたくさん投げさせ、早めにゲームから引きずり下ろす。ところが今年は早いカウントから打てるボールはどんどん狙っていく。例えばベッツのような打者は引っ張ってフライを打ち上げた方が、反対方向に打つよりはるかに結果が良いと「wRC+」の指標から分かっている。

「wRC+」というのは、個々の打者の攻撃面の価値を、安打、四球数だけでなく、試合状況の違い、球場の違いなど、付随する事項も含め細かくはじき出したもの。リーグの平均を100として、それより上なら好打者、下なら力が劣る。マイク・トラウトの2016年は170、17年は181、アルバート・プホルスの16年は110、17年は78だった。ベッツは引っ張った打球を44パーセントから55パーセントに増やし、打球角度を14・1度から20・3度に上げ、「wRC+」を昨季の108から215と飛躍的に伸ばしている。

 チームがアプローチを変えたのには理由がある。MLBは近年、先発投手を早めに交代させ、層を厚くしたリリーフ投手の継投でリードを守る戦略にシフトしている。先発に球数を投げさせて早めに降板させても95マイル(約152キロ)を投げる豪腕投手が次々に出てくれば勝つチャンスは少ない。加えて待球作戦だと2ストライクと追い込まれるケースも増えるため、ボール球に手を出さざるを得なくなり、強い打球を打てる確率は著しく低くなる。

 それならむしろ早いカウントから、強打できる球に絞って待つ。大事なのは早いカウントから狙うといっても、何にでも手を出すわけではないということ。英語で言えば「DRIVE(強打)」できるコースと球種である。ベッツはあの試合、大谷からの本塁打こそフルカウントだったが、2本目は2球目、真ん中のスライダー、3本目は初球内角真っすぐをたたいた。

 ほかの打者も同じやり方でチームは得点力を増している。レッドソックスは今季からアプローチを変えるにあたり、2013年に同球団を世界一にしたジョン・ファレル監督を解任。チリ・デイビス打撃コーチも去った。出塁率重視の考え方だったからだ。

 代わって、アストロズのベンチコーチだったコーラを監督に、ドジャースのアシスタント打撃コーチだったティム・ハイヤーズを打撃コーチに招へいした。言うまでもないが、アストロズとドジャースがその考え方で17年のワールド・シリーズに進出した。効果はてきめんに現れている。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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