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川口和久コラム

「ど真ん中ほど難しい球はない」と言った落合博満/川口和久Webコラム01

 

「俺が唯一打てなかったのはお前だ」



 何回続くか分からんが、これから週に1回、俺が現役時代に戦った相手、あるいは一緒に戦ったチームメートについて書いてみようと思う。

 最初は落合博満さんから行こうか。日本球界でただ一人、三冠王を3度取った天才バッターさ。

 俺が対戦したのは1987年にロッテから中日に移籍してからだから8年かな。最後の1年、94年から落合さんは巨人で、95年からは俺も巨人に入ってチームメートになった。

 これは自慢していいと思うけど、あの人から「俺が唯一打てなかったのはお前だ」と言われたことがあるんだ。確かにそうだと思うよ。打たれてないわけじゃないけど、手痛い一打を食らったという記憶はない。

 落合さんは、すべてが計算の中に入っている人だった。相手ピッチャーのピッチングの傾向も、すべて頭の中に入っていたんじゃないかな。引っ張ることもあったけど、ベースはセンターから右方向へのホームラン。それだけボールを引き付けていたんだろうね。

 ピッチャーから見ると、バットの出が遅いんだ。あ、これは見送ったな、と思ったタイミングから出てくる。しかもバット操作がムチャクチャうまい。ほんとかどうか知らんけど、バッティングをテレビカメラが横から撮っていたとき、「邪魔!」と落合さんが言ってもどかなかったら、ファウルチップをカメラに当てて壊したという伝説もある。

 落合さんに言わせると、俺のピッチングは計算できなかったらしいね。

 こう書くと、俺のコントロールが悪かったからと思った人も多いんじゃないかな。違うよ。確かに針の穴を通すほどじゃないけど、プロで何年かやってからは、それなりには投げられたつもりさ。ノーコンはいわば覆面だね。相手打者はかく乱できるし、自分から否定する必要もないでしょ。

 落合さんは、俺のパターンが読めなかったんだ。たとえば、広島の先輩・北別府学さんは、インコースのシュートを意識させて、外のスライダーで勝負するピッチャーだったけど、落合さんは外を待っていたら必ず来るから、それを仕留めたらいいと思っていたらしい。

 大事な場面だけだけど、落合さんが相手のときは、わざと自分からカウントを悪くして勝負した。ボール、ボールから入って、真ん中のカーブでストライクを取った後、もう1球ボール球を投げて3ボール1ストライクにするんだ。そこまで落合さんは絶対バットを振らない。そこから勝負して最後は、ど真ん中の真っすぐで勝負する。このパターンが決まると、ほとんど打ち取れた。

 落合さんは「ど真ん中ほど難しい球はない」と言っていた。甘いと思うと自然に力が入って、バットが波打ったり、下から入ったりするらしい。ムダな力で、自分のイメージのバットの軌道が変わると言っていた。ただ、それも球威があったからこそだよ。俺のストレートは140キロ台後半でキレもあったし、カーブで緩急も使えた。落合さんだけじゃなく、腕をしっかり振ったときのど真ん中は、ほとんど打たれた記憶がないね。

 何だか今回は自慢話になったか。まあ、最初だからいいでしょ。じゃあ、また来週。

●落合博満(おちあい・ひろみつ)
1953年12月9日生まれ。秋田県出身。右投右打。身長178cm、体重82kg。秋田工高から東洋大中退、東芝府中を経てドラフト3位で79年ロッテ入団。3年目の81年に首位打者に輝くと、翌82年には戦後最年少の三冠王に。86年には2年連続、史上最多となる3度目の三冠王を獲得した。87年に中日へ移籍、89年には史上初の両リーグ打点王、翌90年には史上初の両リーグ本塁打王。94年に巨人へFA移籍。97年に日本ハムへ移り、翌98年限りで引退。通算成績2236試合、2371安打、510本塁打、1564打点、65盗塁、打率.311

写真=BBM

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週刊ベースボール編集部

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