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川崎憲次郎以来の甲子園へ!古豪復活へ着実に歩を進める大分・津久見高

 

シェアハウス「闘球寮」の運用をスタート


大分・津久見高校野球部のシェアハウス「闘球寮」で夕食を取る部員たち(左から永井貴大、岩切秀記)。体力アップによる伝統の「攻撃野球」で30年ぶりの夏の甲子園を目指す


 1967年春と72年夏に甲子園優勝実績がある津久見高(大分)が「古豪復活」へ向けて、確実に歩を進めている。最後の出場はエース右腕・川崎憲次郎(元ヤクルトほか)を擁した1988年(第70回記念大会)で、平成以降は全国舞台から遠ざかっている。

 昨今、少子高齢化、過疎化が深刻な社会問題となっている津久見市。以前のような活気を取り戻すため、2016年5月、津久見高野球部の新後援会が発足した。同校OBである川野幸男市長が会長で、地元経済界、企業を巻き込み、市民を挙げて盛り上げていこうという組織。かつての「野球のまち 津久見」を、一丸となって復活させようという動きだ。

 後援会事務局の山崎祐司さんは津久見高野球部OB。川崎憲次郎の2学年上で「私は二塁を守っていましたが、彼は1年夏からエース。次元が違いました」。現在は津久見市の職員で「一市一校しかない。市民は昔から野球熱が高く、理解もある。個人会員、法人会員、オール津久見で盛り上げていこう、ということです」。物資両面での支援を約束している。

 新後援会の“目玉”としてJR津久見駅近くにシェアハウス「闘球寮」が昨年4月から運用をスタートした。全盛期の1960年代には市内企業の独身寮を寮として利用していた時期があったが、老朽化により取り壊し。別の場所に移したが、耐震を理由に2013年10月限りで閉鎖していた。通学が困難である大分市、別府市からの入学を希望する部員を受け入れるためには、寮が必要不可欠。新後援会のバックアップにより“念願”がかなったのだ。

 新後援会理事が買い上げた4階建てのアパートの一部(2〜4階の3室でいずれも3LDK)を使用。現在は3年生2人、2年生2人、1年生7人の計11人が共同生活を送る。風呂、トイレ、洗濯場もリフォームされており、快適な生活空間となっている。

 食生活も充実。アパートの1階に食事処「稲穂」が入居し、正面の一室が部員11人で一斉に食事が取れる食堂となっている。「稲穂」は「闘球寮」の開設に合わせて、12年間営業していた近所から移転して、オープンした。旧・闘球寮時代から夕食を届けており、親族がかつて津久見高に勤務していた深い縁もあった。「温かいものをいっぱい食べて馬力をつけ、体重を増やしてほしい」(高尾順子さん)と、野球部支援のために移った思い入れがある。

あくまで甲子園に“戻る”


 この日の練習は中間考査が控えていたため、いつもよりも1時間早く、19時に切り上げた。20時に夕食はスタート。栄養満点の豪華メニューがテーブルに並び、部員11人はおいしそうに口にしていた。朝食のおかずも前日のうちに仕込み、提供している。高尾さんは言う。

「中学時代、津久見が全国制覇して、市内をパレードしたんです。赤いオープンカーに無数の紙吹雪……。今も記憶に残っています。昨年は(台風による)水害もあって、大変な思いをされた方がたくさんいる。夜の町は本当、静かです……。とにかく、この子たちに頑張ってもらって、津久見に活気を取り戻してほしい。親元を離れた生活で、食事とメンタルをサポートするのが私の仕事です」

 寮長・岩切秀記(3年)は入寮の第1号。父・秀人さんは、津久見高・河室聖司監督と稙田東中時代の2学年後輩。こうした縁で大分市内からの越境入学を決断し、1年時は津久見市内の下宿先から通っていただけに、便利になった。

「人よりも自主練習ができますし、ゴハンもおいしい。ありがたいです」

 規則正しい日常生活が、学校、野球にもつながる。夕食後は食堂でテストに向けた学習。野球と同様、勉強にも全力投球している。

「これは、河室監督の教えですが、1年時は礼儀を学び、2年時は努力を重ね、集大成の3年時は感謝の気持ちで恩返しする。支えていただいている市民の方のためにも、甲子園に帰りたいと思います」(岩切)

 津久見高野球部では「甲子園に行く」という言葉は使わない。あくまで「戻る」。春夏を通じて18回出場している古豪のプライドであり、市民の夢を背負う覚悟がにじみ出ている。

 高校野球には、地域を元気づけるパワーがある。昭和最後の夏から遠ざかる津久見高は、平成最後の夏となる第100回記念大会、30年ぶりの甲子園出場を目指す。

文=岡本朋祐 写真=上野弘明
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