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編集部員コラム「Every Day BASEBALL」

ヤクルト・坂口智隆がローリングスのバットを「神様」と呼ぶワケ

 

まるで打ち出の小槌。この黒バットで安打を量産する


「最高にうれしいです。いい場面で回ってきて、打てて良かったです」

 5月6日の広島戦(神宮)、延長11回二死一塁の場面で自身初のサヨナラ二塁打を放った坂口智隆。勝利のお立ち台では、充実感たっぷりの表情で歓喜の瞬間を振り返った。すると直後に待ち受けていたのは、青木宣親からの“祝福のシャワー”だった。

 そんなシーンを見つめながら、1年以上前に行ったインタビューを思い出した。坂口にバットについてのこだわりを聞いたところ、本人の口からは意外な言葉が飛び出した。

「バットは僕にとっての“神様”。ヒットは僕が打つのではなく、バットが打たせてくれるんです。僕はただ練習を一生懸命やるだけで、試合で打てるか打てないかはバットが決めること。打席に入ったらもう、神頼みです」

 そう言って豪快に笑った。そんな坂口が使用しているのは、ローリングス社製の黒バット。「特にこだわりはない」と本人はそっけなく笑い、趣味だという釣りの話に脱線してひとしきり盛り上がったが、これを額面どおりに受け取るわけにはいかない。後にメーカー担当者にエピソードを聞いたところ、やはり“こだわり”が垣間見えた。

 坂口はいわゆる“感覚派”の選手。天才肌と言ってもいいだろう。ゆえに、口で説明するのは難しいのだ。その形状はプロ入り以来、ほとんど変化はないと本人は言うが、同担当者によると「坂口選手は数グラム、数ミリ単位の感覚を重要視されています」。選手本人の“感覚”を具現化するため、メーカーは新たな形の開発に日々取り組んでいるという。

 時計の針を「現在」に戻す。5月9日現在、今季通算38安打はリーグ6位タイの数字。打率.352と首位打者争いでも上位につけている。オリックス時代の2011年には175安打でパ・リーグ最多安打のタイトルを獲得。ヤクルト移籍後の16、17年には2年連続で155安打をマークし、これらはいずれもチームトップの数字だった。

 攻守走でスタイリッシュなプレーが持ち味だが、それとは違う一面も持ちあわせる。オリックス時代には右肩肩鎖関節の脱きゅう、じん帯断裂の大ケガを負い、その後はベンチを温める不遇の時代も経験した。ヤクルト移籍も出場機会を求めての一大決心だった。さらに今季は春季キャンプ途中から、「中学時代以来」という一塁守備にもチャレンジしている。屈辱を味わいながらも、泥にまみれながらも、そのたびにはい上がってきた。その姿勢は今も変わらない。

 自らは「神頼み」と呼ぶが、そのバットともに切り開いてきた野球人生。さらなる高みを目指すその挑戦は、現役を終えるまで続いていくはずだ。

文=富田 庸 写真=榎本郁也

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