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川口和久Webコラム

俺のメンタルを鍛えてくれた高橋慶彦さん/川口和久Webコラム

 

「遊び方を教えてくれた恩人だね」


すげえ、かっこいい先輩だった


 前回、落合博満さんの話を書いたらムチャクチャ反響があってビックリした。

 これ、「週刊ベースボール」でやってる俺のコラムの特別版でだけど、もう逆でいいんじゃないか、こっちが本番、週べが特別版でさ……。

 冗談、冗談。俺は子どものころから週べを読んでる。現役時代も、やめてからもいろいろ扱ってもらったし、ほんと感謝してるよ。

 今回は俺のカープ時代の先輩、高橋慶彦さんの話を書こうか。絶対、怒られそうな内容もあるんで、慶彦さんが読まないことを祈ってます。まあ、許してくれると思うけどね。

 慶彦さんは、川口和久という野球選手のメンタルを強くしてくれた人であることは間違いない。ずいぶん怒られた。野球はそうでもないけど、遊び方を教えてくれた恩人だね。いまも大好きな先輩だよ。

 広島カープに入団した1981年、若手で実力、人気No.1が慶彦さんだった。俺の1年目は、慶彦さんもまだ寮にいたけど、いつも真っ赤なポルシェに乗って夜の街に消えていく。それを見て、「カッコいいな。俺も早く一軍の選手になりてえな」ってずっと思ってた。

 顔はカッコいいし、足は速い、ショートの守備も華麗。いまの巨人坂本勇人みたいな感じかな。俺はもっとすごかったと思うけど、昔を美化してると思われたくないんで、そう書いておくよ。でもね、小説家の村上龍さんが慶彦さんをメーンテーマに据え、『走れ! タカハシ』って小説を書いたんだ。すごくないか。その後、オリックスイチローが出てきたとき、それをもとに『走れ! イチロー』って映画があった(2001年)。俺の俳優デビューなんだけどね。

「グラウンドでは、すごく頼りなる人だった」


 俺は最初、北別府学さんにかわいがってもらって、投手の極意とかいろいろ教えてもらったんだけど、北別府さんと慶彦さんって仲が悪かったんだよね。ケンカはしないけど、張り合っていたと言えばいいのかな。慶彦さんがポルシェを買ったら北別府さんがBMWを買ったりね。

 慶彦さんで覚えているのは、1年目、寮で電話当番をしていたことがあるんだけど、たまたまウチの実家からかかってきて5分くらい話をしたんだ。

 電話が終わったら、慶彦さんが真っ赤な顔で「おい、集合!」って怒鳴ってる。そこで「新入りが5分も電話してたぞ、お前らどんな教育してるんだ!」ってみんなに怒って、俺も近くにあったゴミ箱のプラスチックのふたで頭を叩かれた。

 あとで聞いたら、そのとき慶彦さん、彼女からの電話を待ってたらしい。まあ、怒るわな。いまみたいにスマホの時代にはあり得ない話だね。

 グラウンドでは、すごく頼りなる人だった。あの人はショートだけど、何度も助けてもらったよ「俺が捕らなかったらヒットだったぞ。ちゃんと投げんか!」と怒られたこともあった。

 阪神戦の8回くらいにマウンドに来て「おい、川口、掛布(雅之)さんから三振取ったらごちそうしてやるよ」って言われたこともあった。俺が「ほんとですか! じゃあフグ食わしてください」と言ったら「よし、その代わりダメならお前、払えよ」って。結局、三振取ってご馳走してもらったね。

 のちのちは俺が守備位置を指示したことあった。「三遊間に寄ってください」とかね。最初は信じてくれず、「なんでや」と言ってきた。俺は「外にチェンジアップを投げるので、三遊間にボテボテの球が行く可能性が高いと思います」と言って、実際、何度かそこに飛んでいくうちに、だんだんアイコンタクトができるようになった。

 あとね、俺がなるほどと思ったのは、盗塁の話。投手のクセを盗むというと、グラブの動きがとか、肩の動きがとか、すごくパーツを言うことが多いけど、慶彦さんは全体をぼんやり見ると言っていた。要はグラブだけ見たって分からないんだ。ぼんやりと言うのは考えずに見るという意味じゃなく、一カ所に集中し過ぎず、全体をバランスよく見るということだね。そうすると逆にけん制のときのグラブの動きの違いとかがはっきり分かるらしい。「そうなりゃ盗塁なんて簡単よ」と言ってたけど、これもまた一つの職人技、いや名人芸だね。

●高橋慶彦(たかはし・よしひこ)
1957年3月13日生まれ。東京都出身。右投両打。城西高からドラフト3位で75年に広島入団。2年目の76年にはスイッチヒッターに挑戦、78年に正遊撃手となり、翌79年には55盗塁で盗塁王、日本記録の33試合連続安打などの活躍で優勝、初の日本一に貢献した。日本シリーズではMVPにも輝いている。その翌80年には38盗塁で2年連続盗塁王、85年には自己最多の73盗塁で3度目の盗塁王に輝くなど、赤ヘル機動力野球の一番打者として広島黄金時代をけん引した。90年にロッテへ、91年には阪神へと移籍し、92年限りで現役引退。通算成績1722試合、1826安打、163本塁打、604打点、477盗塁、打率.280。

写真=BBM

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週刊ベースボール編集部

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