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「エースのウィニングショットを打つ」。山田久志が体感した落合博満の凄味

 


 初めて三冠王を獲得した82年以降の対戦成績を見ると、91打数31安打、10本塁打、22打点、打率.340――。

 阪急で通算284勝をマークしたサブマリン、山田久志にとっても3度の三冠王を獲得した落合博満(ロッテほか)は当然、簡単に打ち取れる打者ではなかった。

「落合が台頭してきたときには、私は駆け引きを駆使して相手を抑え込む投球スタイルにシフトチェンジしていたが最初、落合はシンカーを打つことができなかった。彼の読みを外してシンカーで打ち取る。だけど、いつの日からかシンカーをことごとく打たれ始めた。

 それでも私にも意地があるから、なんとかシンカーで抑えようと投げ込む。だけど、右や左に自由自在に打たれてしまう。ほかの打者は自打球を足に当てたり、空振りしてボールが腹に当たったり。それくらいキレ味が鋭いボールだったのに落合には通用しない」

 なぜ、落合がシンカーを攻略したのか、皆目見当がつかなかったという。タイミングの取り方や立ち位置の変化などは感じられない。打たれて、打たれて、どうやって抑えようかと、考え込んでいるときにオールスターで一緒になった。そのとき落合が「山田さん、たまに投げるピュッと外ヘ逃げるスライダーみたいなボール。あれ、いいですね」ということをチラッと言った。

 確かに、いまのカットボールのような速いカーブを投げようと試していたが、そんなに試合で使っているわけではなかった。たまたまいいところに決まって、落合がそれで打ち取られて強烈に印象に残っていたのだろう。

 その後、“カットのような速いカーブ”を多く使い始めて、抑えることができた。しかし、落合が並の打者でないのは、しばらくすると、それも攻略してきたことだ。

「やっぱり、落合が優れているのはエース級のウィニングショットを打ち崩すこと。西武東尾修のスライダーもそうだし、チームメートの今井雄太郎シュートなんて、“いらっしゃい”状態。読みと技術。それを兼ね備えた打者はなかなかいないよね」

 四番として、相手投手の決め球を打ち、戦意を喪失させるような打撃を見せる――。そんなスラッガーをいつの時代も見たいものだ。

文=小林光男 写真=BBM
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