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プロ野球回顧録

連続試合出場の終わらせ方

 

病気やケガで途切れる記録


29日の試合をベンチで見守る鳥谷


 5月29日、甲子園でのソフトバンク戦を阪神鳥谷敬は最後までベンチで見守った。2004年9月9日から続いていた連続試合記録は歴代2位の1939試合でついに途切れた。大記録だけに残念だったが、打率.143の不振では仕方ないか。

 つくづく終わらせ方が難しい記録ではある。

 この記録を長く続けるということは、当然、チームの主力として貢献し続けているということだ。
 加えて、人間には調子の波や故障、病気、さらには年齢による衰えが必ずあるが、マジメに節制、努力し、そのリスクを回避しながら衰えの時期を遅くすればするほど、記録は延びる。しかも、代打で記録を継続する手もあり、起用する指揮官にしても、記録が注目されるとストップさせるかどうかの見極めが難しくなる。

 選手自身もそうだ。前述のように、マジメでフォア・ザ・チームの意識が高い選手のほうが長く継続する記録ともいえ、不振が長引くことで「いまの自分はチームに貢献できているのか、不要ではないか」と悩むこともある。

 過去を見れば、ヤンキースのルー・ゲーリッグが1925年6月1日の代打出場から39年4月30日まで当時の世界記録2130試合連続試合出場。最後、ゲーリッグは自ら監督に申し出て記録をストップさせた。理由は病気だ。原因は不明だったが、自分の体が思うように動かせなくなったからだ。

 その後、急激に運動能力が低下していく筋萎縮性側索硬化症と診断され、引退を決意。7月4日の引退試合で「私は、この地上でもっとも幸せな男です」と涙ながらにあいさつした。ゲーリッグは、その後も闘病を続けたが、41年、37歳で力尽きた。

 日本では飯田徳治から話題となった記録である。「ケガや病気で試合に出られないのは野球人の恥」と語っていた人だが、南海から国鉄移籍の2年目、58年5月24日の阪神戦で走塁中にアキレス腱を断裂、記録は1246試合でストップした。

 阪神では、名三塁手・三宅秀史が700試合連続全イニング出場の当時の日本記録を持っていたが、62年9月6日、試合前の練習中に、ほかの選手とキャッチボールをしていた小山正明の送球がそれ、ボールが三宅の左目に直撃。そのまま入院した。左目は手術をしたが視力は完全には戻らなかったという。

体も心も強い鉄人


 93年、プロ1年目途中からスタートさせた巨人松井秀喜は、日本球界では1250試合連続試合出場で“完走”。休養があって当たり前のメジャーでも記録を継続したが、2006年5月16日、守備中のケガで1768試合で途切れた。

 日本球界史上3位の記録、1766試合を持つのが現阪神監督の金本知憲だ。1492試合フルイニング出場の世界記録を持つ鉄人である。フルイニングがストップした後も続いていた連続試合出場が途切れたのは、11年4月15日の中日戦(ナゴヤドーム)。8回表二死一塁で投手の代打に立つも一走の俊介が盗塁に失敗し、打席未完了のままチェンジとなった。この後、真弓明信監督が金本に代え投手を出したため記録はストップ。試合後、金本は「気にしてない。まったくこだわりはなかった」と笑顔を見せた。責任感が強く、前述の悩みを一番感じた選手かもしれない。この男が鳥谷に引導を渡したのは、残酷といえば残酷な巡り合わせだ。

 当時ゲーリッグを抜く世界記録で、いまだ日本記録で残る2215試合の記録を持つのが、広島衣笠祥雄である。
 フルイニング出場に関しては、79年、三宅の持っていた日本記録700試合に、あと22試合と迫ったところで古葉竹識監督にストップされた。当時の衣笠は打撃大不振。古葉監督からは「監督の仕事はすべての選手が幸せになること。それが勝つことなんだ」と言われたという。

 衣笠は「砂漠の中を歩いていて、もう限界かなというときに1杯の水と百カラットのダイヤモンドを差し出されて、あなたはどちらを取りますか、と。僕はダイヤモンドを選ばなかった。そう記録を捨てたんです」と語っている。おそらく、古葉監督の葛藤も手に取るように分かったのだろう。

 ただ、連続試合出場は87年ラストイヤーの最終戦まで継続した。2016年のインタビューで衣笠は次のように語っている。

「僕の連続試合出場はまだ続いているんですよ。だって球団と契約してもらえるだけの体と技術を戻して、またユニフォームを着て試合に出ればその可能性があるじゃないですか。誰もそんなことは思わないけど、僕だけはそれを知ってるんです」

 すでにガンの告知を受け、闘病中だった。あらためて思う。体も心も強い鉄人だった。

写真=石井愛子
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