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編集部員コラム「Every Day BASEBALL」

極上のドラマが人を変える。F村田透の巨人戦勝利に思うこと

 

2年連続で古巣の巨人から勝利をマークした村田透。意地が詰まった熱投だった


「ドラマが必要だろ。人間、感動しないと何も変わらないよ。村田、今日は一緒に感動するぞって。それだけだよ」

 栗山英樹監督らしい言葉であり、人間味あふれる采配だった。

 5月31日の巨人との交流戦(東京ドーム)。冒頭の言葉は指揮官が試合前の囲み取材で記者たちに話したコメントの一部だ。この日の先発は昨シーズンから日本ハムに加わった村田透。大体大から2008年にドラフト1位で華々しく巨人に入団し、スター選手への階段を駆け上がっていくかと思われた。だが現実は残酷なものとなり、わずか3年で戦力外……。天国から地獄へと突き落とされた。

 それでも野球への情熱は尽きることはなく、変わらずに精力的なトレーニングを続けて現役続行を決めた。そのひたむきで真っすぐな思いは、村田を想像もしない世界へといざなうことになる──。

 海の向こうからMLBインディアンスからのオファーが舞い込んだのである。「まさかと思いましたけど、本当にうれしかった。これでまた野球ができる」。そこから6年間にわたってアメリカで奮闘。ほとんどが苦しいマイナー暮らしではあったが「向こうに行かなければ経験できないこと、吸収できないことをたくさん学ぶことができた」と村田は回顧する。アメリカで現役を終えたいという気持ちもどこかにあったが、日本ハムからの熱心なオファーに心動かされて2017年からNPBに復帰。“異色の逆輸入右腕”として話題をさらった。

 いまこうして振り返ると、それもすべて栗山監督の演出だったのか、昨シーズンの初勝利も6月11日の巨人戦(札幌ドーム)だった。チームとしての戦略、先発ローテーションの兼ね合いもあったと思うが、「巨人時代は一度も勝てなかった。だからこそ日本での初勝利は巨人から……」という指揮官の親心からの起用だったとも思う。期待に応えて勝利が決まった試合後、指揮官からウイニングボールを手渡され、人目をはばからず大粒の涙を流した村田。そのシーンは私の中でも2017年シーズンの名場面の1つとしていまも深く記憶されており、村田という投手にまた興味が湧いた試合でもあった。

 あの涙の勝利から約1年後。今度は巨人時代には一度も立つことができなかった東京ドームのマウンドで歓喜の瞬間を迎えた。そこには涙はなく、「もっとチームの勝利に貢献していきたい。その気持ちだけです」と1年前とはまた違う村田の成長、さらには主力投手としての自覚も感じることができた。また奇しくも、その試合は同じ母校の大先輩であり、アメリカ時代から親交のある上原浩治も同じマウンドに。「叶わないかもしれないですけど、いつかは上原さんとも投げ合ってみたい」という夢も実現した日となった。

“名演出家”でもある情熱の指揮官の下、新たなドラマを紡いだ村田。日米をまたにかけた波乱万丈の野球人生はまだまだ終わりそうになく、こんな監督や選手がいるからこそ、プロ野球ってやっぱり面白い。

文=松井進作 写真=高原由佳
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