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パンチ佐藤の漢の背中!

興味は行動力につながる最大の原動力 大野雄次/パンチ佐藤の漢の背中「03」

 

『ベースボールマガジン』で連載しているプロ野球選手の第2の人生応援プロジェクト「パンチ佐藤の漢の背中」。「現役を引退してから別のお仕事で頑張っている元プロ野球選手」のもとをパンチさんが訪ね、お話をうかがう連載です。今回は大洋、巨人ヤクルトで勝負強い代打の切り札として活躍し、現在は都内で「鰻・和食料理 大乃(おおの)」を営む大野雄次さんをお訪ねしました。

プライドを捨てるということは……


大野雄次氏


パンチ 僕たちは小さいころから、同じことを毎日コツコツやってきましたよね。雨の日も風の日も、バットを振って。それがなんでプロ野球を引退したとたん、できなくなってしまうのか。やっぱりプライドが邪魔をするんですかね。

大野 いや、違うな。自分が本当に興味を持ったものに対しては、続けられるわけでしょう。だから今度は新しい仕事に――何でもいいから自分が第二の人生で始めたことに対して、まず興味を持つことだと思うんだ。俺だって当然、ゼロからのスタートだったけど、やっぱり興味っていうのは、行動力につながる最大の原動力だから。

パンチ 興味のない人に、どんないい言葉を言っても刺さりませんもんね。それは一つ、勉強になりました。僕も芸能界に入って、グルメ番組とか楽しいです。

大野 それも、食べるものに興味があったからでしょう?

パンチ ありました。それに、行く先々、会う人々、自然と興味が湧きましたね。

大野 だから、見ていて違和感ないんだ。こいつ、こういうことが好きだったんだなって思うもん。

パンチ 僕は貧乏で育ったもんですから、何を食ってもおいしいんです。

大野 いやいや、作り手はまずいもん作ってないから(笑)。みんな、おいしいものを食べさせようと思って、作っているんだよ。

パンチ そうですね。ありがとうございます! いやあ、よく「プライドを捨てて」とか言いますけど、プライドはもちろん捨てて、プラス何か興味を持つことが大切なんですね。

大野 だと思うよ。プライドを捨てるっていうのはね、例えば店に立ったとき、自分がプロ野球選手時代にチヤホヤされていたからといって、お客さんを上から目線で見ちゃダメだということ。やっぱりお客さんが一番偉いんだからね。

パンチ 大野さんご自身はうなぎの修業をしているとき、この仕事のどこに一番興味を持ちましたか。

大野 焼き場で焼きながらとか、接客しているときの会話が、楽しくなってきちゃった。

“野武士”のように荒々しい、ケンカみたいな本当の勝負が見たい


「大乃」はJR田町駅前の森永エンゼル街地下で、さまざまな和食とお酒を提供している


パンチ 大野さん、お酒が好きだから、居酒屋で飲んでいる人たちの話も余計面白く感じるんでしょうね。あとはやっぱり、人が好きなんだな。こうして順調に来ていらっしゃいますが、次の夢や目標はありますか。

大野 まあ当然、生業としてこの店がずっとうまくいくことが一番だよね。今年、19年目に入ったの。だから川鉄のOB会に行くと、「気を緩めずに無事20年目を迎えたい。働けるうちは常に店にいて頑張っていきますんで、よろしくお願いします」って言っているよ。

パンチ 大野さん、体型が変わっていないですよね。何かしていらっしゃるんですか。

大野 ずっと水泳をやってるよ。ウエート・トレとかいろいろやったけど、ウエートはさすがにつらい。それに筋肉をつけてもしょうがないなと思って、水泳を始めてもう10年。1週間に5000メートル泳ぐんだよ。

パンチ 引退して、頭髪の状態が変わるのは仕方ないにしても、やはり何となく良いシルエットは残しておきたいですよね。

大野(笑)。現役時代の面影がまったくなかったらさ、来てくれるお客さんに失礼じゃない(笑)。

パンチ 大野さんは今のプロ野球を見て、どう思われますか。

大野 真中(満=前ヤクルト監督)とも去年のシーズン中、話したんだけど、最近は“野武士”っていう感じの子がいないよね。

パンチ 大野さんも川藤(幸三、元阪神)さんも、まずベンチにドンっといるだけで絵になった。そういう選手、今いないですよね。チャンスになったら、ファンが「大野、大野!」ってコールするような。それでやおら出てきたら、ネクストでブンッブンッとバットを振って、またスタンドが湧く。

大野 確かに、絵になる選手はいなくなったよね。まあ、山田(哲人)なんかが故障明けで出てきたら、そういう雰囲気があるかなあ。

パンチ ピッチャーもバッターも、技術の面では我々のころより断然優れていると思うんです。だけど今は匂いというか、荒々しさがない。今後、プロ野球界にはどういうことを期待しますか。

大野 今、他球団の選手同士、仲がいいじゃない。そのせいか、火花の散るような、エキサイティングな試合があまり見られないんだよね。スマートな試合よりも、もっと荒々しい、ケンカみたいな“本当の勝負”っていうのかな。そういう空気感の試合が、俺は見たいですね。

パンチの取材後記


 今回は大野さんから、3つの素敵な言葉をプレゼントしていただきました。

 1.「面倒くさい!」と言わない!!

 2.準備の大切さ!

 3.興味を持って生活すると、前向きになれる!

 特に「3」は、子どもたちはもちろん、われわれ世代にも言えることですね。年を取ったから「もういいや」ではなく、いろいろなものに興味を持って、いつまでも若々しく、ハツラツと生活したいものです。

 僕は今、学生から社会人まで対象に講演会をしていますが、大野さんの言葉をヒントに、何か一つのことに「興味を持つために」あるいは「興味を持たせるために」という内容で話せるようにしたいな、と思いました。

<完>

●大野雄次(おおの・ゆうじ)
1961年2月2日生まれ、千葉県出身。君津商高から専大(中退)、川崎製鉄千葉を経て、ドラフト4位で87年大洋に入団。92年巨人、94年にヤクルトへ移籍。「野村再生工場」で代打の切り札として活躍し、95年の日本シリーズ第1戦では代打で初打席本塁打。96年には「代打逆転満塁本塁打」を同一シーズンで2回も記録した。98年限りで引退。通算成績は457試合出場、打率.245、27本塁打、116打点。現在はJR田町駅前で「鰻・牛タン料理・酒・喰い処 大乃」を営む。

●パンチ佐藤(ぱんち・さとう)
本名・佐藤和弘。1964年12月3日生まれ。神奈川県出身。武相高、亜大、熊谷組を経てドラフト1位で90年オリックスに入団。94年に登録名をニックネームとして定着していた「パンチ」に変更し、その年限りで現役引退。現在はタレントとして幅広い分野で活躍中。

構成=前田恵 写真=椛本結城
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