読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は走塁編。回答者は“足”のスペシャリスト、元巨人の鈴木尚広氏だ。 Q.盗塁の際、ピッチャーのけん制やモーションなどは判断の基準になると思うのですが、キャッチャーの肩、盗塁阻止率はどのくらい考慮するものなのでしょうか(チーム、個人のそれぞれの判断)。また、鈴木さんは現役時代に「キャッチャーの阻止率が高いから」と盗塁をやめるようなことはありましたか。(静岡県・33歳)
A.盗塁で大切なのはピッチャーとの間合いをいかに制すか。良いスタートはキャッチャーのプレッシャーを与えられる。
イラスト=横山英史
質問の方がおっしゃるように、ピッチャーのけん制やモーションは注意深く観察し、頭の中に入れるようにしています。キャッチャーに関しても、そもそも誰なのか、そのキャッチャーは肩が強いのか、コントロールがいいのか、阻止率は高いのか、低いのかという部分も当然、知っておくようにしています。ただ、それは自分がスタートを切る上での気持ち的な余裕につなげるものであって、盗塁のスタートを切る、切らないを左右されるものではありません。
たとえば、
古田敦也(元
ヤクルト)さん、
谷繁元信(元
中日ほか)さんがマスクをかぶっている場合、肩が強いだけではなく、捕ってからも早く、コントロールまで良いときていますから、トータルで勝負されると、「こちらが良いスタートを切らなければいけない」という感覚が出てきます。つまり、プレッシャーですね。ただ、私はこのプレッシャーも楽しめるタイプだったので、苦にはなりませんでしたが、一般的には走りにくい感覚に襲われるのではないでしょうか。
とはいえ、「キャッチャーの阻止率が高いから」といって、チームとして、個人として、最初から「盗塁はしない」という判断にはならないでしょう。盗塁阻止に関しては、ピッチャーとキャッチャーの共同作業ですし、キャッチャーがどんなに優れていても、ピッチャーのモーションが大きい、クイックがヘタなど、さまざまな要素がありますからね。
そういう意味でも、盗塁に関しては、ピッチャーの間合いをいかにして制すか、という部分が重要になってきます。当然、キャッチャーのことも考えるのですが、まず意識を向けるべきはピッチャーでしょう。このピッチャーとの間合いを制してこちらが良いスタートを切った場合、逆にこれはキャッチャーにとってプレッシャーになります。捕球からスローイングまでを早くしなければいけない、強く正確なボールを投げなければいけないと思わせれば、ミスを誘発することにつながるでしょう。
つまり、盗塁で大事なのは“良いスタートを切る”ということです。そこにキャッチャーの肩が強い、阻止率が高いは関係ないですよね。私もピッチャーのクイックが速いか遅いか、合うか合わないか。どうスタートを切るかを一番に考えていました。
●鈴木尚広(すずき・たかひろ)
1978年4月27日生まれ。福島県出身。相馬高から97年ドラフト4位で巨人入団。走塁のスペシャリストで、代走での通算盗塁数132は日本記録である。16年現役引退。現役生活20年の通算成績は1130試合出場、打率.265、10本塁打、75打点、228盗塁。