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パンチ佐藤の漢の背中!

東映投手から俳優へ“悪役商会”八名信夫「今は野武士がいない」/パンチ佐藤の漢の背中「03」

 

『ベースボールマガジン』で連載しているプロ野球選手の第2の人生応援プロジェクト「パンチ佐藤の漢の背中」。「現役を引退してから別のお仕事で頑張っている元プロ野球選手」のもとをパンチさんが訪ね、お話をうかがう連載です。今回は「元プロ野球選手」であることを知らない人も多いのではないでしょうか。「悪役商会」代表のベテラン俳優であり、元東映投手の八名信夫さんをお訪ねしました。

生きている以上、少しは人の役に立てればいいんじゃないか、と


パンチ佐藤(左)、八名信夫氏


パンチ 悪役商会を作ったのは、どんなきっかけがあったのですか。

八名 あまりにも主役にばかり日が当たるからね。主役を引き立たせている悪役だけで、何か面白いことをやろうって話になった。悪役を紹介して売るんだから、「悪役商会」だ、と。手始めに、老人養護施設を慰安して歩こうってことになったわけよ。そうしたら最初、中に入れてくれなくてね(笑)。

パンチ 怖そうに見えますからねえ(笑)。

八名 強面が12人いたからな。園長さんが「慣れるまで中に入らないでください」って。「じゃあ、何をやったらいいですか」と聞くと、「庭を掃除してください」。それで庭を40分くらい掃除していたかな。そのうち中で寝ているおじいちゃん、おばあちゃんが俺たちに手を振ってくるようになってね。俺らが窓ガラスを拭いているのが、手を振っているように見えたんだね。それを見た園長が「慣れましたから、中に入ってください」って。慣れましたって、俺らは猿かって(笑)。あとは、何か悪役らしいものを作り上げてみたいなって、悪役だけでミュージカルをやったこともあるよ。歌えない、踊れない、それでどれだけ面白くなるかって思ってね。あれはウケたねえ。

パンチ 今後の夢はいかがですか。

八名 夢というより、生きている以上、何かまだ少しは人の役に立てればいいんじゃないかと思ってね。今、映画を作って被災地を援助する活動をしていますよ。3月26日に熊本で『駄菓子屋小春』という映画をクランクインするんだけど、これは熊本の女優さんに半分以上出演してもらって、子どもたちも向こうでオーディションしてね。こちらから持っていくより向こうで全部やったほうが、金が落ちるのはもちろん、みなさん元気も出るでしょう。

パンチ 僕は川崎出身なんですが、プロ野球がオリックスで神戸、両親の出身地が東北・岩手。そして今、福岡で番組を持っているので、熊本でも飲んで食べて撮影して応援、と。八名さんまではいきませんけど、各地に“元気配達人”をしているつもりなんです。石原軍団や杉良太郎さんのように、すぐ炊き出しに向かう人もいれば、他の形で応援する人もいる。それぞれの応援の仕方、役割があるわけで、八名さんも元気を配達していらっしゃる応援団だったんですね。ところで、東映フライヤーズは日本ハムファイターズになり、今は北海道に行ってしまいましたが、まだ古巣という意識はありますか?

八名 今はもう、ないね。今の選手は楽でええなと思う。あんなに稼ぎやあってなあ(笑)。俺らのころは風が吹けばゲームが中止で、みんなで水を撒いて、トンボを持ってグラウンドを直しながらね。ピッチャーも追い風のときはどうする、向かい風のときは何を使うって、キャッチャーを呼んで「おい、これも曲がりがいいぞ」なんて言いながら、配球を組み立てていくんだ。今は風も何もなくて、金魚鉢に入っているようなもんだよ。佐藤ちゃんがいた時代のような、野武士が欲しいね。

パンチ みんな、かわいらしくなっちゃいましたよね。

八名 今は“ベールボール”になってしもうた。礼儀正しいからね。右を向けといったら、みんな右を向くんだ。中には左を向くヤツがいてもいいじゃない。バントのサインが出ても、何が何でも打つヤツがいてもいい。そういう野球が見たいね。

パンチの対談後記


「主役のタバコの煙と悪役のタバコの煙は違う!」

「殺されに行くのではなく、殺しに行く。そして、殺される!」

 この違いに、“プロフェッショナル”を感じましたね。

 僕はグルメレポーターとして、例えばカツ丼を食べる仕事をいただいたら、当日まで絶対カツ丼を食べず、撮影に臨みます。「カツ丼2、3口食べてコメントすればいいんだろう」という気持ちでは、視聴者にいろいろなものが伝わらないと思うから。俳優さんの仕事とはまったく違いますが、八名さんの「殺しに行って……」のお話をうかがって、やはりこの姿勢でよかったんだな、と思いました。

 今日から映画を観るとき、主役ではなく脇役、特に悪役に目が行ってしまいそうです。「この俳優さんはこのシーン、どういうふうに考えているんだろう」と想像しながら観たら、また別の楽しみ方ができそうですね。

<完>

●八名信夫(やな・のぶお)
1935年8月19日生まれ、岡山県出身。岡山東高から明大(中退)を経て、56年に東映フライヤーズ(現北海道日本ハムファイターズ)に入団し、試合中の負傷のため58年限りで引退。通算成績は15試合登板、0勝1敗、防御率3.86。引退後は親会社の東映で俳優として活躍し、数多くの映画、ドラマ、舞台などに出演。後に俳優集団「悪役商会」を結成した。現在は脚本・監督・主演を務める映画『駄菓子屋小春』を、熊本で熊本の皆さんとともに撮影中(今秋完成予定)。

●パンチ佐藤(ぱんち・さとう)
本名・佐藤和弘。1964年12月3日生まれ。神奈川県出身。武相高、亜大、熊谷組を経てドラフト1位で90年オリックスに入団。94年に登録名をニックネームとして定着していた「パンチ」に変更し、その年限りで現役引退。現在はタレントとして幅広い分野で活躍中。毎週日曜20時からFMたちかわにて『パンチ佐藤の“ガッツで行こうぜ!”』が絶賛放送中。

構成=前田恵 写真=山口高明
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