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広岡達朗コラム

巨人首脳陣は選手と本気で向き合っているのか?/広岡達朗コラム

 

岡本の四番起用は評価



 今年のセ・リーグは1強多弱だ。私たちの時代は「1強」といえば巨人以外に考えられなかった。だが、いまや広島に完全にお株を奪われている。その原因はどこにあるのか。

 問いたいのは首脳陣が選手と本気で向き合っているのかということだ。選手の能力を開発するためには耳の痛いことも言わなければいけない。

 にもかかわらず、選手の体型を見ればウエートオーバーやアゴの肉が目立つ選手もいる。首脳陣の指導が組織全体に行き届いているか否かは、見る人間が見れば一発で分かる。一事が万事。不祥事も後を断たない。

 その中で評価すべきは岡本和真をシーズン途中から四番として我慢強く使い続けていることだ。

 春季キャンプでは松井秀喜(元ヤンキースほか)の指導を受け、軸足の右足に重心を残して打つようになったが、効果は出なかった。松井の考えを否定するつもりは毛頭ないが、選手には合う指導、合わない指導がある。最終的には自分の頭で考えることが大切だ。岡本にはその想像力があるのだろう。どんどん重心を体の真ん中に置くようになってきた。

 王貞治がなぜ一本足打法で成功したかというと、二本足よりバランスが取れたからだ。一本足の状態で、周りが押しても腕にぶら下がっても微動だにしない。バランスを取る、気を出す、重心は下に。私も薫陶を受けた合気道の藤平光一師の「臍下の一点」(※心身統一合氣道の創始者、藤平光一氏の教え。意識を臍の下の一点に置き、体の重心を下に置くことで、最高の能力が発揮できると説く)を王は取り入れた。

 岡本本人がそこまで意識しているかどうかはともかく、重心が臍下の一点に近づいてきた。案の定、打ち続けている。

 ただ、押しも押されもせぬ巨人軍の四番かと言われれば、まだまだ物足りない。真の四番というのは、背中で周りに影響力を及ぼす存在であるべきなのだ。

 岡本が一塁に入ったことで、阿部慎之助は控えに回った。高橋由伸監督には、阿部に「3割を打てなかったら辞めてくれ」と言いきれるだけの信念を持ってほしい。阿部がこれまで果たしてきた巨人への貢献度は十二分に認めている。しかし若いころの肉体が年齢とともに衰えていくのは自然の理であり、阿部であろうと、その天命からは逃れられない。

 阿部の今季年俸は2億1000万円(推定)。選手の年俸にはスター性、観客動員力に対する評価も含まれているが、契約は本来インセンティブ(出来高)であるべきというのが私の持論だ。最低保証をしてやった上で、働いたら1億円なら1億円を気持ちよく出す。その結果、本人は発奮して頑張るのだ。ただベンチに座っていてカネが入るようなドンブリ勘定は日本だけでしか通用しない。

巨人軍の血と他球団の血は違う


 私は何人もの歴代巨人フロントと話をしてきた。ある元代表には「血は混ぜたほうがいいのでしょうか」と聞かれた。私は「巨人軍の血と他球団の血とは違う。巨人軍は勝って当たり前。負けたら負けてやったという鼻持ちならぬ連中を育てるのです。よそは勝てば喜びますが、巨人は次元が違います」と答えた。

 巨人の歴史を遡れば、誇り高き血が流れている。勘違いしてほしくないのだが、悪い意味でのプライドの高さは捨て去るべきだ。本当の意味での誇りを現在の巨人には育んでほしい。

広岡達朗(ひろおか・たつろう)
1932年2月9日生まれ。広島県出身。呉三津田高、早大を経て54年に巨人入団。大型遊撃手として新人王に輝くなど活躍。66年に引退。広島、ヤクルトのコーチを経て76年シーズン途中にヤクルト監督に就任。78年、球団初のリーグ制覇、日本一に導く。82年の西武監督就任1年目から2年連続日本一。4年間で3度優勝という偉業を残し85年限りで退任。92年野球殿堂入り。
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