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西武、10年ぶり優勝へのカギとは?

 

勝利後の西武ナインとファン


 黄金時代の西武でチームリーダーを務めた石毛宏典が、日本シリーズにおける森祇晶監督のさい配で最も印象に残っているのは1988年の日本シリーズだったという。

 星野仙一監督率いる中日との頂上決戦。3勝1敗と西武が王手をかけて迎えた第5戦(西武球場)のことだ。点の取り合いとなって西武が5対6と1点リードを許して9回裏へ。負ければ終わりの中日は7回から登板していた郭源治にすべてを託した。しかし、日本シリーズ3連覇を狙う西武には王者の底力がある。先頭打者の五番・石毛は郭が投じた外角の甘いストレートを見逃さない。うまくとらえ、バックスクリーン右へ打球を運ぶ。起死回生の同点ソロ本塁打だ。

 スコアが動かないまま延長11回裏。先頭打者の四番・清原和博が郭から中前打で出塁すると、再び石毛に打席が回ってきた。

「この場面、前の打席で本塁打を放っている私に森監督が出したサインは送りバント。でも、これは当たり前の作戦です。いくら結果を残していても、いくら五番であろうとも、こういった状況で送りバントの作戦を取るのが森野球なんですよ。私にとっても違和感はなかったですし、それはもちろん、チームメートも同様ですよ」

 続く立花義家は三振に倒れたが、伊東勤がライトオーバーのサヨナラ打を放って西武が3連覇を達成。ちなみに、このシリーズ、石毛はMVPに輝いていた。

 当時、森監督は報道陣に「あの場面、石毛にバントさせることに躊躇はなかったんですか?」と聞かれ、「まったくなかったですね。その打者が誰であれ、スコアリングポジションに走者を送ることが最善の策だと思っていましたから。あとの打者が、必ず結果を出してくれると信じていました」と答えている。

 勝利のための自己犠牲の精神。それが黄金時代のチーム内で共有されていたのは間違いない。

 当然、石毛とともに黄金時代のチームを先頭に立って引っ張っていた現在の辻発彦監督にも森監督のDNAは流れているだろう。指揮官就任時、辻監督は次のように語っていた。

「大切なのは“アマチュア精神”なんですよ。高校野球も社会人野球も、みんな勝って喜んで、負けて泣く。自分がいくら打ったって、甲子園や都市対抗に行けなかったら意味がないんです。だから、エラーだろうが何だろうが塁に出れば御の字ですし、とにかく相手より1点多く取れば勝ち。白星をつかめればチームも、ファンも喜ぶことができる。自分の成績は二の次で、チームの勝利が第一。選手には、それを最優先に考えてもらいたいですね」
 
 現在、2位・日本ハムに3ゲーム差で首位に立つ西武。10年ぶりの優勝へのカギの一つは、そういった野球を貫けるかだろう。

文=小林光男 写真=BBM
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