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甲子園ヒーロー列伝

中京商・吉田正男、延長25回を投げ抜き夏3連覇を成し遂げた男(甲子園ヒーロー列伝/11)

 

右が吉田、左は捕手の野口明


 100回の記念大会を迎える夏の甲子園。週べオンラインでも、本大会開幕まで、甲子園を沸かせた伝説のヒーローたちを紹介していこう。
 
 もはや歴史上の人物だが。この企画でこの人を外しては怒られそうだ。3年連続夏制覇を成し遂げた中京商(愛知)のエース、吉田正男である。

 1933年(昭和8年)夏の中京商は、打力より守りのチームだった。
 3年春からエースとなり、6季連続出場の5年生・吉田正男は、「2点以上取られたらまず勝ち目はなかったチーム」と語っている。
 
 1回戦は吉田がノーヒットノーランで善隣商に大勝したが、2回戦の浪華商戦(大阪)で思わぬハプニングが起きる。

 3回裏の守備中、センター前ヒットで三塁カバーに回った吉田が、センターからの返球を受け損じて顔面に当て、左まぶたを切ったのだ。

 浪商ベンチが抗議すれば交代せざるを得なかったが、試合を30分中断し、吉田は医務室で2ハリ縫った後、ふたたびマウンドに立ち、中京商は3対2で辛うじて勝利した。

 そのあと大正中(広島)に勝ち、8月19日の準決勝に進出。同年センバツで敗退した最大のライバル・明石中(兵庫)との対戦になった。相手は剛腕で鳴る楠本保と、頭脳的ピッチングをする左腕・中田武雄を擁し、事実上の優勝戦とも言われた。

 明石中は意表をついて中田の先発。「打倒楠本」に燃えた中京商への奇襲だった。

 試合は吉田、中田の投手戦となり、互いに0が並ぶ。

 9回裏には無死満塁、中京商、一打サヨナラの絶好機もあったが、中田の力投に阻まれ、延長戦に突入。以後も互いに走者は出るが、どうしても得点に結びつかないまま進んだ。

 15回には明石中が二死ながら満塁としたが、吉田は楠本を三振に打ち取り、ヤマ場を切り抜けた。だが力投にも限度があった。

「20回ごろまでは、絶対抑えてやるという意識もあったが、それを過ぎると疲れを覚え、投球が惰性になった」(吉田)

 中京商は23回にも二死満塁のチャンスを迎えたが、ここも得点できず延長はなおも続く。

 見かねた関係者の間では引き分けの話もあったという。
 
 決着は25回裏。中京商が待望の得点を挙げて1対0で勝ったのだが、試合時間がなんと4時間55分。吉田が336球、中田が247球で、ともに完投だった。

 吉田は宿に帰ってから勝利の実感をかみしめ、「人間やればできるんだ」と感心したという。

 ただ、これで終わったわけではない。
 翌日は決勝だ。相手は古豪の平安中(京都)。さすがの吉田も25回の疲れが残り、投球しても肩の感覚がなかったという。
「捕手のミットをめがけて機械的に投げるだけだった。よく1点でとまったものだと、いまでもそれを思い出すゾッとする」

 試合は2対1で勝利。こうして甲子園史上にさんぜんと光る中京の3連覇は達成された。

 吉田の甲子園通算成績は23勝3敗。もちろん、史上最多勝である。
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