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広岡達朗コラム

遊撃守備で合格点をあげられるのは今宮健太だけだ/広岡達朗コラム

 

ゴロは体の正面で捕るべき


辛口の筆者も評価するソフトバンク・今宮の守備


 今季も悪送球などのエラーが守備で頻繁に見受けられる。情けなく思うことも少なくない。

 私は現役時代にショートだったので、どうしてもショートに目がいく。12球団を見渡してみて、まずまず合格点をあげられるのはソフトバンクの今宮健太ぐらいだ。

 われわれの時代はイレギュラーを捕ってこそ一流と言われた。土のグラウンドのイレギュラーバウンドはハンパではない。いまでは人工芝の球場が当たり前の時代。それなのに、なぜエラーをするのか。

 本来、ゴロというのは体の正面で捕るべきものだ。そのためには、フットワークを使わなければいけない。しかし、逆シングルで捕ったほうが足を使わずに済むため、みんな楽な方向に流されてしまう。結果として、三遊間の深くて難しい打球を、ショートが捕れなくなる。

 足を使うことと同時に、備えも欠かせない。投手のモーションに合わせて、どちらの方向に打球が飛んできやすいのか、打者の傾向、配球を頭に入れて1球1球、守備位置を微妙に変えていけば、いざ打球が飛んできたときに、正面に入れる確率は高くなる。基本の再確認を促したい。

 私の現役時代には、一塁に川上哲治さんがいた。「打撃の神様」と称され、巨人をV9に導いた名将だ。

 川上さんは、好き嫌いがはっきりしていた。自分を慕ってくる後輩のことはかわいがる。私は気の利いたお世辞の一つも言えない男だから、扱いづらかったかもしれない。しかし、川上さんは少なくとも野球に関しては、選手を差別しなかった。遠征先の部屋に私を呼んで1対1で向き合ってくれた。忘れられないのは「俺は守備がヘタだ。(自分の胸の前に30センチ四方の四角形を指で作って)これは捕るぞ。しかし、それ以外は捕らんからな」という言葉だ。

 私は早大時代、「ヘタなら練習して上手になれ」と言われて育ってきたので、「それなら練習すればいいじゃないですか」と、つい口答えしてしまう。だから嫌われてしまうのだが、それでも川上さんはいい送球は褒めてくれた。少しでも球が横にそれれば「ヘタクソ!」と罵声が飛んでくる。なつかしい思い出だ。ああいう人がいまはいなくなった。

投げるために捕る、ということ


 つい昔話が長くなったが、では、結論として、うまくなるためには、具体的にどうしたらいいのか。(一塁へ)投げるために捕ればいいのだ。ボールを受けてトントントンとステップを踏んでいるうちに、打者走者が一塁に迫っているのを見て慌てて投げるから悪送球になってしまう。目的はキャッチングそのものではない。一塁でアウトにすることだ。もちろん、捕球の瞬間だけは動きが止まるが、足を使って流れるように一連の動作を行えば、つまらないエラーは防ぐことができる。投げるために捕る――これをコーチは伝えていくべきではないだろうか。

 その上で、ゲームに即した練習を選手にやらせる。やさしいボールを「エラーするなよ〜」と言いながらノックしていれば、本物の守備力など身に付くはずがない。上っ面だけの儀礼的なノックなどいらない。実戦さながらの緊張感を持って強烈なゴロを打ってやるべきなのだ。

広岡達朗(ひろおか・たつろう)
1932年2月9日生まれ。広島県出身。呉三津田高、早大を経て54年に巨人入団。大型遊撃手として新人王に輝くなど活躍。66年に引退。広島、ヤクルトのコーチを経て76年シーズン途中にヤクルト監督に就任。78年、球団初のリーグ制覇、日本一に導く。82年の西武監督就任1年目から2年連続日本一。4年間で3度優勝という偉業を残し85年限りで退団。92年野球殿堂入り。

写真=BBM
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