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編集部員コラム「Every Day BASEBALL」

「クビ同然」からの再出発。逆転Vを呼ぶ田中賢介の献身

 

百戦錬磨の勝負強い打撃はまだまだ健在。この男の経験がチームの窮地を救う


 ベテランの意地と、経験が詰まった会心の一打だった。

 8月11日のヤフオクドームでの日本ハムソフトバンク戦。1対1で迎えた9回表一死満塁で打席には、田中賢介。公私ともに仲の良い鶴岡慎也が「(二塁ランナーから見ていて)打つんじゃないかなと思っていました。昔から賢介はヤフオクでよく打っているので」の予感どおり、森唯斗の外角高めのストレートをセンター前に運んで勝負あり。このタイムリーでチームの連敗も止まり、栗山英樹監督も「さすがです」と絶賛した。

 昨年オフの契約更改では、野球協約の減額制限を大きく超える1億2500万円ダウンの7500万円でサイン(金額は推定)。「これが僕に対する球団の評価。事実上のクビと同じですし、いろいろと考えました」と複雑な胸中を口にしながらも、日本ハムでの現役続行を決めた。

 現在のポジションはたまにスタメン出場の機会もあるが、主に試合終盤での代打が主戦場。これまで常に第一線で二塁の絶対的なレギュラーとしてプレーしてきた男にとっては、さまざまな葛藤の中で戦っていることは容易に想像できる。それでも日々の試合に向け、取り組み方に変わりはない。

 ロッテに移籍した岡大海がこんな話をしてくれたことがある。「この世界に入っていろんな方の背中を見てきましたけど、あれだけ試合に出るために考えてストイックにやられている方はそうはいないと思います。トレーニングはもちろん、それこそ食事のバランス、食べる順番のことまでたくさん教えてもらいました」。

 胃腸が弱く、好き嫌いも多かった岡のために食べるメニューをアドバイスし、自身もオフの期間には肉体をリセットするために断食をするなど、長くプレーするために何が必要かを突き詰めてきた。ほかにも古傷の右肩を強化するために、1人黙々とインナーマッスルを鍛える姿がいまもある。その野球に向かう真摯な姿勢は若手たちにも刺激を与え、この男にしかできない役割を担っていると思う。

 北海道移転以降、5度のリーグ優勝と2度の日本一。そのすべてで原動力の1人となり、勝利の味を知り尽くす百戦錬磨のベテラン。残り50試合を切り、西武との一騎打ちの様相を呈してきたパ・リーグの優勝争い。自身にとって6度目のVに向け、まだまだ背番号3の存在はファイターズに欠かせない。

文=松井進作 写真=湯浅芳昭
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