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中日・松坂大輔はなぜ勝てるのか

 

チームのバックアップ


松坂2ケタ勝利が中日CS進出への道にも


 8月16日、空回りにも感じたが、横浜高OBを打線に4人並べたDeNAを相手に、中日・松坂大輔が5勝目(3敗、防御率2.79)を挙げた(ナゴヤドーム)。

 6回3失点と内容的には今一つだったが、サイクル安打の平田良介高橋周平ら打線の援護にも支えられ、11対5での勝利だった。

 ソフトバンク時代の3年間、一軍登板1試合のみで、ほぼチームに貢献できなかった。
 戦力外となり、中日のテストを受け、入団。37歳という年齢に加え、肩の故障も深刻と伝えられ、正直、あまり大きな期待はなかったはずだ。

 オープン戦でも3試合で防御率6.30と周囲から見たら不安視されるピッチングだったが、松坂にすれば、「肩さえ大丈夫なら」という思いはあったようだ。

 結果的には休み休みの登板ながら現在5勝。これは最下位中日の投手陣ではガルシアに次ぎ、小笠原慎之介に並ぶものとなっている。

 好調の要因はいくつかある。

 一つは首脳陣のバックアップだ。長打の出にくいナゴヤドームを主戦場に設定し(9試合中8試合)、登板間隔にも細心の注意を払っている。さらに言えば、これはめぐり合わせだと思うが、強打線で鳴らす広島ヤクルトの対戦はまだない。

 ただ、これは決して“過保護”ではない。
 投手コーチ出身の森繁和監督が、いまの松坂の力を冷静に分析し、もっともチームのためになる、結果を出せる起用をしているということだ。
 
 加えて前日の試合のように、味方の奮起がある。
 チーム全体から「松坂さんに勝たせたい」という雰囲気がはっきり出ている。当然、松坂登板日に急増する観客数も力になっているのだろう。
 当初は力みにつながったようにも思うが、いまはうまくかみ合い、打線も登板日3試合連続本塁打の高橋周平を筆頭に松坂登板試合は打てるという暗示にかかってきたようにも感じる。
 暗示といえば、すでに8試合続く松坂登板翌戦に負けないジンクスも大きな付加価値だ。

得点圏被打率は圧巻の.125


 もちろん、運だけで勝てているわけではない。

 ひとつには、被本塁打の少なさが挙げられる。
 京セラドームのオールスターで滅多打ちされた印象は強いが、公式戦では被ホームランが、これまで3本。

 16日のDeNA戦でロペス、ソトに打たれ、被本塁打率は0.56となったが、それまでは1本で0.21。規定投球回未到達ながら圧巻の数字だった(到達者で0.56を上回るのも阪神メッセンジャー、広島・ジョンソンのみ)。

 広いナゴヤドームを考えても少ない。長打を徹底して避けてきたことが分かる。また、被本塁打だけを考えれば、諸刃ともいえる高めへのフォーシームを捨て、カットボールを中心に手元で動く球での組み立てに変えたことも大きいかもしれない。

 松坂の最大の武器は、ピンチでの強さだ。得点圏被打率はなんと.125である。

 規定投球到達者では2.36で防御率1位の広島・大瀬良大地が.295、2.80で2位の巨人菅野智之が.205だ。
 
 ただし、これはピンチをどれだけ招いたかの問題もあり、登板回数125回3分の2の大瀬良の相手得点圏打席が76、48回3分の1の松坂は73。大瀬良は、そもそもピンチを未然に防いでいるともいえる。

 さらに満塁、一、三塁、二、三塁、三塁と、今季走者を三塁に置いた場面で打たれたヒットはわずか1本。満塁では被打率.000(12打数0安打)で犠飛もない。
 押し出しは2と、きわどいコースへ粘り強く投げ込み、最悪歩かせてもと考えながらのピッチングと推測できる。
 実際、与四球率は5.59と先発としては高い。

 唯一気になるのは走者一塁での被打率は.292。クイックによって球威が落ちたところを狙われているのかもしれない。

 いずれにせよ、いまの松坂は過去の栄光ではなく、現時点の等身大の力で、最大限のパフォーマンスを見せているのが、データでもうかがえる。

 松坂はメジャーに行く際に言った。
「僕は夢って言葉が好きじゃありません」と。
 おそらく今の松坂に「もっと速い球が投げられるはず」「抑えられるはず」ではない。

 ただ、なぜかわれわれは、そんな松坂の姿に夢を見てしまう。
 2ケタ勝利、そしてそれに引っ張られての中日CS進出。この男ならやってくれそうな気がする。 


週刊ベースボール編集部

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