谷繁元信氏と
里崎智也氏というかつての名捕手2人に、「チームを勝利に導く捕手」をテーマに話を聞く機会があった。
やや漠然としたテーマではあるが、もちろん前提条件が“正捕手”であることに変わりはない。捕手の併用制が叫ばれる時代ではあるが、それでも谷繁氏は「143試合のうち最低8割はメーンのキャッチャーがマスクをかぶるほうが、シーズンは組み立てやすくなる」と口にする。
そこで
ロッテの若き正捕手・田村龍弘である。今季は8月29日時点で、全112試合中111試合で先発マスクをかぶっており、
井口資仁新体制になって完全にベンチと投手の信頼をつかんだ形だ。
では、試合に出るために捕手に求められる条件は何か。2人の名捕手は「捕る」「止める」「投げる」だと声をそろえた。里崎氏は「リードの評価は数字では計れない」と前置きした上で、「キャッチングが良くないとブロッキングが良いはずがないし、キャッチングとブロッキングが良くないとスローイングが良いはずがない。この3つが良くないといいリードなんてできるはずがない」と言う。
例えばキャッチングに不安があれば、ワンバウンドをそらしたら致命的という場面で落ちるボールを要求しにくくなる。スローイングに不安があれば、どうしても走られたくない場面ではストレートのサインが多くなってしまう。そんなことでは、そもそもリードにならないというわけだ。
そこで再び田村だ。今季中盤、スローイングについて尋ねると「スローイングがうまくなるにはキャッチングがうまくならないと。キャッチングがうまくなれば自然に握り替えもできる」という答えが返ってきた。
ブロッキングの向上も今季の目に見える成長の一つだが、「清水(将海)コーチと毎日練習して、意識してやれている部分なので、継続してやっていきたい」と、明確な課題として取り組んだ結果であることを明かしてくれた。いずれも両氏が語る“守備のベース”とリンクするものだと言えるだろう。
さらに“打てる捕手”としても鳴らした2人が続けた言葉は、「ある程度打てること」。その最低ラインはというと、里崎氏は「打率は2割5分、2割5分が打てないならホームラン2ケタ」だと言い、谷繁氏も2割5分を線引きにしながら、「どこで2割5分を打つか」と加えた。
田村は現在、打率.245で3本塁打、30打点。打率は2割5分をわずかに下回るが、得点圏打率は打率超えの.287をマークしている。「別に4打数4安打を求められているわけじゃない。しっかりバントをするとか、チャンスでしぶといバッティング。そういうことをしっかりやっていきたい」と、意識は十分だ。
8月28日のソフトバンク戦(ヤフオクドーム)。若鷹軍団の10連勝を阻止したのは田村だった。先発・
有吉優樹を筆頭に投手陣を粘り強くリードし、10安打を浴びながら強力打線を1点に抑え込むと、8回に一死三塁から決勝の適時二塁打を放って2対1の勝利に導いた。
これによって「田村が正捕手に足る」と言うつもりはない。それでも、「“真の正捕手”へ向けてやるべきこと、進むべき道が、田村の頭の中でクリアになっている」とは言っていいのではないか。24歳のカモメの背番号22は、確かな“未来の正捕手候補”であると。
文=杉浦多夢 写真=湯浅芳昭