昨オフ、楽天の青山浩二は崖っぷちだった。
「星野(仙一)さんにチャンスをもらった。本当はなかった1年だと思って今は楽しんでいます」
引退の2文字が脳裏をよぎり、プロの厳しさを痛感した。
楽天創設2年目の2006年に入団したベテラン。生え抜きとして球団の歩みを知る数少ない現役選手だ。だが、毎年欠かさず一軍のマウンドに上がり続けてきた右腕も、若手の台頭に押され、出場機会が減っていく。16年は50試合登板も、防御率4.83。昨季は10月9日の
日本ハム戦(Koboパーク宮城)で球団初の500試合登板を達成したが、プロ入り最少の17試合登板にとどまった。その中で、最後のチャンスをくれたのが星野氏だった。
背水の思いで迎えた今季は、開幕こそ二軍で迎えたが、4月後半には一軍に呼ばれ、好投を披露。試合を立て直すピッチングを続けた。7月17日の
ロッテ戦(ZOZOマリン)では8回を三者連続三振で抑え9回の逆転劇につなげるなど、後半戦に入るとさらにギアを上げた。
「負けが込んでいても、もっと弱い時期を知っていますから。しっかり準備してやるだけだと思って切り替えています」
今季は苦しいシーズンとなっている楽天だが、ベテランの背中は頼もしい。そして自身も苦しい時期を過ごしてきたからこそ、さらに強くなった。
「人生の中でもやっぱり一番そこ(昨オフ)がどん底だったので。疲れてたり、しんどいときでも、そのことを思えば全然耐えられる」。
球団とともに歩んできた青山は、苦しい時代を支え、13年には60試合に登板し優勝に貢献している。だからこそ、復活を望んでいたのはファンであり、13年時の監督の星野氏だったのだろう。その思いに応え、さらなる活躍を誓った。
「もうそんなに長くできないですから、1試合でも多く投げている試合を見せたいですし、まだまだやれるというところも見せたいと思っていますね」
今季は9月2日現在、43試合登板で3勝1敗、19ホールド、防御率2.18。復活を果たしたベテランの野球人生はもう少し続きそうだ。一軍のマウンドに立てる喜びをこれまで以上に感じているからこそ、大事に、楽しく――。
文=阿部ちはる 写真=BBM