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U-18侍ジャパンリポート

上原浩治に重なった高校日本代表・野尻幸輝のピッチング

 

攻撃に勢いをもたらすマウンドさばき


香港との開幕試合で先発した木更津総合・野尻は3回を打者9人に対して7奪三振と、パーフェクトに抑え込んでいる


 第12回BFA U18アジア選手権(宮崎)が9月3日に開幕した。高校日本代表を率いる永田裕治監督が、大事な香港との初戦で先発を託したのは、木更津総合・野尻幸輝だった。

 どんな大会も「入り」が大事である。なぜ、野尻をオープニングゲームに起用したのか。国際大会の“鉄則”を永田監督は心得ていた。

「テンポ、コントロール、変化球も良い。スピードはないが、打たせて取る投球ができる」

 過去の国際大会の実績から見ても、香港より日本が優位なのは明らかだった。とはいえ、初戦はだれもが緊張する。だが、野尻の精神的な強さにかけた。実際、野尻は1回表をわずか8球、簡単に三者凡退に仕留めている。しかし、その裏、攻撃陣は硬さから力みが目立って、こちらも三者凡退。一方、冷静な野尻は2回表もわずか10球、三者連続三振で斬った。その裏は打者24人で19得点と、まさしく、守備のリズムを攻撃につなげたのである。

 結局、野尻は3回まで投げ、打者9人から7奪三振とパーフェクトに抑え込んでいる。野尻がゲームメークした日本は、26対0の5回コールドで快勝発進している。

 野尻の姿はかつて、フル代表(現在の侍ジャパントップチーム)の常連であった巨人上原浩治の投球に重なる部分があった。制球力に長け、ストライク先行で、攻撃に勢いをもたらす。国際大会の初戦ではまず、上原が日本のリズムを作っていた姿が、野尻のマウンドさばきとかぶったのである。

 今大会は初めて「球数制限」が適用。野尻が3回を26球で降板した内容に、永田監督は「最高ですよ!! 1戦目か2戦目の先発を考えていた」と絶賛した。

 実は野尻は「投手専任」ではない。3年夏の東千葉大会までは、背番号5。甲子園で初めてエース番号「1」を着けたのである。

「昨秋に(県大会準決勝で)負けたときに投手陣に課題が出た。自分が投手をやることによって、少しでも力になるのでは『やってやろう!!』と」

 野尻は1年秋からレギュラーで、1年時は早川隆久(早大2年)、2年時は山下輝(法大1年)と2人の左腕エースの背中を見てきた。

「自分には先輩2人のような技術はない。でも、気持ちでやってきた自信はあります」

 全体練習の30分前には早出でのメニューをこなし、練習後も一人グラウンドに残って、黙々と投手としての技術を高めた。野尻は文字どおり「努力の天才」である。

“リアル二刀流”でチームに貢献


 今夏の甲子園は2勝を挙げ、3回戦進出。四番打者としてもチームを引っ張ったが、さすがに夏を通じての疲労が蓄積。高校日本代表に合流後は、打撃を生かす一塁での出場が続き、右ヒジにはテーピングが巻かれていた。

 香港戦後、永田監督は初めて明かしている。

「ヒジの状態が思わしくなく、治療に専念していました。宮崎県高校選抜との壮行試合で投げられるようになり、良かった。かなり、信頼しています」

 野尻は非凡な打撃でも指揮官の期待は大きく、投手で起用する場合はDHを解除。この日の香港戦も「六番・投手」で出場して中越えの三塁打を放った。永田監督は「打撃も良いですから、こういう使い方になる」と、今後も“リアル二刀流”の可能性は十分にある。

 野尻は先発前日に「(高校球児)15万3000人の中から選ばれたので(思いを)背負っていく」と気合を入れ、その言葉どおりの快投を見せた。

 この試合、サイクル安打を達成した大阪桐蔭・根尾昂とは同郷の岐阜県出身。中学3年時はボーイズリーグの県選抜で一緒にプレーした仲でもある。根尾は投手、右翼手、遊撃手の「三刀流」。18人と限られたメンバー編成の中で、複数ポジションを守れる2人が、高校日本代表のキーマンとなってきそうだ。

文=岡本朋祐 写真=田中慎一郎
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