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プロ野球1980年代の名選手

福本豊【前編】予想外の引退劇も ドラフト7位から駆け上がった“世界の盗塁王”/プロ野球1980年代の名選手

 

1980年代。巨人戦テレビ中継が歴代最高を叩き出し、ライバルの阪神はフィーバーに沸き、一方のパ・リーグも西武を中心に新たな時代へと突入しつつあった。時代も昭和から平成へ。激動の時代でもあったが、底抜けに明るい時代でもあった。そんな華やかな10年間に活躍した名選手たちを振り返っていく。

“世界の盗塁王”につながった打撃の成長


阪急・福本豊


 1988年、阪急の終焉が引退するエースの山田久志を送る花道だったとしたら、同様に阪急の黄金時代から、その文字どおりに走り続けて、その花道の“道づれ”になってしまったレジェンドもいた。

 阪急にとって最後の試合となった10月23日のロッテ戦(西宮)。試合終了後のセレモニーで挨拶に立った上田利治監督が、「今日を最後に去る山田、そして福本」と言った。口が滑ったらしい。「グラウンドを去る山田、残る福本」と言うつもりだったという。これもまた、上田監督らしいエピソードではあるが。

 まさに寝耳に水。近鉄とロッテが球史に残るダブルヘッダーを戦った10月19日に球団譲渡を聞かされて「ドッキリカメラやな」と思った、わずか4日後のことだ。もっと巧妙に仕掛けられたドッキリカメラというより、もはや悪い冗談のようでもある。

 好漢、福本豊。現役を続けるつもりだったが、「監督が皆さんの前で言ってしまったんでね」と引退してしまった。

 かつて西武の東尾修に「自分にはクセがあるんですか」と聞かれて、あっさり「投げるときホームに少し体が動く」と教えたこともある(このときは牽制球の名人だった東尾に何度か刺されたが、さらに研究して駆け引きを続けた)。83年に国民栄誉賞を授与するという話があったときには「立ちションもできなくなる」と固辞(もちろん一流の比喩だろうが……)。その一方で、同年は球団のファンサービスで競走馬とのレースに駆り出されたこともあった。

 ドラフト7位という下位で指名されての入団ながら、“世界の盗塁王”にまで駆け上がった男だが、偉くなった日本人男性が得意とする重厚さや、多くの日本人が好む湿っぽさを嫌っているようにも見えた。もちろん、単なる好漢ではない。苦労人であり、実力者だ。

 同期入団はドラフト1位の山田、2位が社会人の松下電器でチームメートだった加藤秀司(のち加藤英司)で、のちに名球会入りを果たす名選手ばかり。“花の(昭和)44年組”とも言われたが、「若いときは3バカと言われた」と笑う。そのドラフト7位で指名されて「チョロチョロしていたから代走か守備固めで使えると思ったんやろね」。

 身長167センチと小柄。実際、西本幸雄監督は足に注目、開幕戦からベンチ入りさせて、代走で起用した。盗塁に失敗しても何も言わなかったというが、打撃に関しては厳しく、「足をキッチリ地に着けて上から叩け。小さくても大きい選手に負けん強い打球を打て」と繰り返した。

 1年目のオフは、ひたすら素振り。「植木に向かって、ハッパをボールに見立ててね。最初は10分、それが1時間、2時間になっていった。次の年、監督が『バッティングを誰かに教わったんか』と言うから、『監督に教わったとおり、やっただけです』と答えた。ほんまやからね」。打撃の成長が、“世界の盗塁王”につながった。2年目から盗塁王に輝くと、そのまま13年連続で戴冠。72年には106盗塁で当時の世界新記録を樹立している。

13年連続で盗塁王のタイトル獲得


 70年代、パ・リーグの盗塁王は独占した。阪急も4度のリーグ制覇、75年からは3年連続で日本一という頂点に立って、黄金時代を謳歌する。だが、恩師である西本監督が率いる近鉄をはじめ、パ・リーグは群雄割拠の様相を呈し、やがて西武が台頭。阪急にとっての80年代は盛者必衰の道だったのかもしれない。

 それでも、不動のリードオフマンとして塁間を駆けた。続く二番打者は、絶妙なサポート役でもあった大熊忠義から、若手の簑田浩二に替わったが、斬り込み隊長として打線を引っ張り続けた。

 もちろん、塁に出なければ盗塁はできない。チームは5位に終わった80年だったが、打率.321。3年連続リーグトップとなる78四球も光る。若手時代に比べれば数は減ったが、54盗塁で当然のように盗塁王となった。これで11年連続だ。翌81年は3年ぶりの全試合出場。2年連続54盗塁で、12年連続の盗塁王に。続く82年も3年連続54盗塁。13年連続の戴冠となった。そして83年。いよいよ、もうひとつの頂点が見えてきた。

写真=BBM

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週刊ベースボール編集部

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