読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は走塁編。回答者は“足”のスペシャリスト、元巨人の鈴木尚広氏だ。 Q.大学で硬式野球をしています。左ピッチャーのときになかなか思い切ったスタートを切れません。左ピッチャーの右ヒザを見るよう言われますが、足の上げ方などは人ぞれぞれで、どこを判断基準にすればいいのか迷います。どのような見方をすればいいですか。(山口県・19歳)
A.どこか一カ所に集中すると動きが固まるので×。レベルの高いピッチャーからはキッカケもつかめない。
イラスト=横山英史
足が速く、盗塁の技術に長けたランナーに共通して言えることは、質問のように左ピッチャーの右ヒザなど(に限らず)、どこか一カ所だけを見ている選手は“いない”ということです。
確かに、野球の入門書のようなものには、『左ピッチャーが上げた右足のヒザが体の中心よりも二塁側に入ると、投球をしなければならないので(※けん制はできない=ボークになる)、二塁側に右ヒザが向くことを見逃さずにスタートしましょう』などと書かれていますが、これはあくまでも小学生や中学生に向けた“入門書”段階の話であって、今の時代、ピッチャーはさまざまなけん制技術を身に付けていて、1つの型にハマったモーションだけではありません。
ましてや質問の方は大学という、学生では最もレベルの高いカテゴリーでやっているのですから、なおのことさまざまなタイプのピッチャーに対応できるようにしておかなければいけませんよね。
この「右ヒザを〜」に関してもっとも問題なのは、どこか一カ所に集中してしまうと、視野が狭くなり、動きが固まってしまうことです。「右ヒザ、右ヒザ」と1点に集中していて、クイックモーションで投げられてしまったらどうでしょう? スタートを切るキッカケすらつかめませんよね。足を大きく上げないけん制に引っ掛かってしまうかもしれません。
また、大学やプロのようなレベルの高いカテゴリーで、けん制を突き詰めて磨き上げたピッチャーは、足を上げるモーションだったとしても、どちらとも取れない絶妙なところでけん制、またはホームへの投球と、投げ分けることも可能です。
「左ピッチャーから盗むことは難しい」と言われる理由の1つに、ランナー目線からいうと表情を含め、その動作がマウンド上のピッチャーにすべて見られていることにあります。余裕のあるピッチャーは、ランナーの動き、表情を読み取り、少しでも違和感を覚えれば、ノーサインで一塁へとけん制するでしょう。
それが刺しにいくような鋭いものではなく、様子見のけん制だとしても、盗塁の技術に自信のないランナーは一塁にクギ付けにされてしまうでしょうね。これはバッティングで言えば、ど真ん中だけに張っていて、それ以外のコースはお手上げ、という状態と同じことです。
[後編へ続く]
●鈴木尚広(すずき・たかひろ)
1978年4月27日生まれ。福島県出身。相馬高から97年ドラフト4位で巨人入団。走塁のスペシャリストで、代走での通算盗塁数132は日本記録である。16年現役引退。現役生活20年の通算成績は1130試合出場、打率.265、10本塁打、75打点、228盗塁。