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川口和久WEBコラム

残り試合、巨人・菅野智之の「7秒」に注目!/川口和久WEBコラム

 

とんでもない男!


いつも秋は絶好調。どこまで成績を改善できるか


 優勝目前で足踏みをしていた広島カープが、やっと決おめた。
 1991年、俺が現役だったとき以来の本拠地優勝だから長かったね。
 みんな、おめでとう。

 翌日、9月27日のスポーツ新聞は、カープ優勝祝賀一色だった。前の日だったら、貴乃花親方の退職と紙面の取り合いをしていただろうから、ずれてよかった。

 カープまみれの新聞の記録欄にふと目をやると、セ・リーグの投手成績のトップに巨人菅野智之の名前があった。
 いつの間にか、広島の大瀬良大地を抜いていたんだね。

 ついでにチーム成績は、と見てみると、セ・リーグはチーム防御率が軒並み4点台の中で、ジャイアンツだけが3点台の3.79だった。
 ただし、その数字は上から4番目……いまの巨人はDeNAと同率3位で2位のヤクルトにも5.5差と離されている。そこで防御率1位といっても、とても胸を張れる数字ではないな。
 
 菅野の性格からして、チームのV逸に対してだけでなく、13勝、防御率2.36にも納得はしてないだろう。昨年は17勝、1.59だしね。
 ただ、巨人は6試合だけど、菅野はふつうなら2試合、詰めたら3試合に投げられる。いまのハーラートップは大瀬良の15勝で、追いつく可能性はある。

 もちろん、いま時点の菅野の記録も十分すごいんだけど、アイツの場合、これまでがすご過ぎるから、なんかインパクトがないんだよね。

 入団から1ケタ勝利は2016年の9勝だけで、このときも2.01で最優秀防御率。このまま防御率のタイトルを獲ったら、入団2年目から4回目になる。1年目の6位、3年目の2位を除けば、すべて1位だから、とんでもない男だ。

 今季の菅野に関して、防御率以上にすごいと思うのは、「完封6」。自己最多記録でセ・リーグでは、現巨人コーチ、斎藤雅樹以来、23年ぶりらしいね。残り2試合すべて完封でもびっくりしないよ。そのくらい菅野の力は飛びぬけている。

 いま中6日なら先発は、1年間で25、26試合、CSなどを考えれば27、28試合登板くらいかな。
 それだけの試合、ローテを飛ばさず投げ抜くためには、すさまじい体力を使う。それを、あいつは入団から6年連続守っている。

 俺も現役時代、入団年からじゃないけど6年連続2ケタ勝利があった。ただ、その中で、1シーズンずっと好調を維持したことは一度もない。いつも春か秋に必ずバテる時期があったんだ。
「春からなんでバテるんだ」と言う人は、当時のカープのキャンプを経験してみてほしいな。ほんときつかったんだから。
 ただ、夏はいつも調子が上がった。

 菅野も必ずバテる時期があるタイプ。それが俺と違って、いつも夏なんだ。今年も7月の月間防御率が4.29だったしね。そういう時期があるかないかが、中6日の時代に20勝できるかどうかの分岐点なのかもしれない。
 

本当は純な男!


 たぶん、みんなは、菅野という男が、いつも自信たっぷりに見えていると思う。
 ファンや相手チームの前ではポーカーフェイスで、疲れた顔をすることはまずない。いつも堂々としているし、打たれたときも、ふてぶてしい顔をしている。
 たぶん、おじいちゃんの原貢さん(故人)や伯父さんの原辰徳前監督に、そういう教育をされたんじゃないかな。相手に弱みを見せるな! って。

 でも、意外かもしれないけど、素顔の菅野は真逆だ。人当たりもいいし、ほんと好青年だよ。
 かわいらしいところもある。
 俺はコーチと選手で3年一緒だったけど、調子が悪いと下を向いたり、きょうはダメって顔をしている。実際、「ダメです」って弱音もはっきり言うしね。
 それをファンや相手チームの前では出さないだけ。

 唯一、あいつでムカつくのは、ドライバーで350ヤードとか打って、平然とした顔をしていること。ああ、思い出しただけでマジ、腹が立ってきた。
 失礼、脱線した。

 菅野は、こだわりの男でもある。
 登板日は、試合前のブルペンから、ずっと自分の世界に入っている。
 いまは知らないけど、俺のコーチ時代は、だいたいアウトコース10球、インコース10球、そして、真ん中に10球を投げ込んでいた。
 俺は後ろに立って見ていたけど、アウトローが外れるときは、あまりよくなかったな。

 登板前のブルペンで真ん中に続けて10球も投げるピッチャーはあまりいない。最後、何球か投げて締めるタイプはいるけどね。
 でも、これって大事なんだ。コーナーに投げ分け、制球力の確認をするのも大事だけど、試合では、時に上目線で腕をしっかり振り、バンバン真ん中に投げ込んだほうが、いい結果になることが多い。練習せずに試合でいきなり「真ん中、来い!」と言われても簡単じゃないしね。
 菅野は、すべてシミュレーションしてブルペンで投げていたんだ。
 クレバーな男だね。 

 ただ、だからと言って、菅野が試合で真ん中にガンガン投げるわけじゃない。あいつは制球力が高い分、コーナーのスミばかり狙いたがる傾向がある。悪いときはそれがしつこいくらいになって、カウントを悪くして四球を出し、次の打者には、初球から甘い球を投げてカンと打たれる。
 ノーコンだった俺からしたらもったいないとしか言いようがないけどね。
 ベンチで見ていて、時々、思ったよ。
「お前、真ん中だけ投げとけよ。それだけすごい球があれば、どうせ打たれんから」って。

 俺なりの菅野の「悪いときの傾向」を3つ挙げてみよう。
 とは、言っても滅多に大崩れはしないし、試合中でも修正できるタイプだから、あくまで傾向、だけどね。
 
 1つめは、ブルペンでアウトローが微妙に外れるとき。
 2つめは、試合でコーナーばかり狙うとき。
 そして3つめは、投球間隔が長いとき。

 3つめについても説明する。
 俺はコーチのとき、いつもタイムを計っていたけど、菅野は、捕手からボールをもらってピッチングを始動するまで、だいたい7秒から9秒と、かなり早い。ただ、サインに首を傾げたりすると10秒以上になり、それが多いとリズムが悪くなって崩れるときの一つのサインになった。

 菅野だけの話ではない。間隔が長い投手はリズムを崩して自滅しやすいんだ。野手もリズムに乗れず、攻撃になっても援護が少なかったりするしね。

 典型が澤村拓一だね。あいつはボールを捕ってからマウンドを1周し、足場をならし、汗をふきながらサイン見ているうちに、20秒くらい経っている。
 守っているほうはたまったもんじゃないよね。

 あと2試合か3試合かは分からないけど、今度は菅野が登板するときは「7秒」に注目してみてほしい。
 7秒と言うと、カップラーメンができるくらいの時間だけど投手にとってはすごく大事なんだ……。

 あれ、カップラーメンは3分かかるの? 悪いね、俺は若いときからヨメさんが愛情たっぷり料理を作ってくれるから、インスタント食品なんて、食べたことない……ということにしときましょう。
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