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編集部員コラム「Every Day BASEBALL」

オリックス・小谷野栄一の存在感

 

引退セレモニー後の一幕。周囲に明るく接する小谷野(写真中央)の人柄も、慕われる大きな理由だった


 結果がすべてのプロの世界。だからこそ、思い描くプレーができなければ悩み、もがき続ける。とくに経験の少ない若手はプロのカベに直面すると試行錯誤を繰りかえす――。
 
 今季、4年連続のBクラスに甘んじたオリックス。2014年オフにメジャー帰りの中島宏之を獲得し、FA宣言した小谷野栄一日本ハムから招き入れるなど、大型補強を敢行するも結果が出ず。以降、生え抜きの育成に方針を変えつつある中で、存在の大きさを示したのが、今年でプロ16年目を迎えた経験豊富なベテラン・小谷野だった。

 広角に打ち分ける、小谷野の類まれな打撃技術を支えたのは“相手投手の配球を考える”こと。俊足堅守を誇りながらも、入団以来「打撃が課題」と言われる後藤駿太と打撃の話をしていた際に名が挙がったのも小谷野の名だ。

「僕はキレイに打とうとし過ぎていて。体勢が崩れるのを恐れていた。小谷野さんに聞くと『崩れると分かってスイングすれば、それは崩れたことにはならない』と言われたんですよね」

“崩される”と“崩れて打つ”。形だけみれば、「崩れる」ことに変わりないが、それは似て非なるもの。崩れることを想定できるのは、次にどんな球種が投じられるかを推測できるからこそ。現役中ということもあり、小谷野本人は事細かに明かしてはくれなかったが、“配球”について聞くと、こう答えた。

「僕は長打力があるわけでもない。その中でプロの世界で生き残るには、『コイツを使えば、この程度の成績を残す』と“計算”できる選手にならないといけない。だから、次にどのボールが来るのか。この投手なら、どんな傾向かあるのか。配球を考えることは大切だし、欠かしてはいけない」

 日本ハム時代には、投手の左右に応じて長さの異なるバットも使っていたという。すべては計算できる選手となるために――。だが、今季は体調面が優れぬこともあり、二度の登録抹消。そして、今季限りでユニフォームを脱ぐ決意を固めた。引退会見で口にしたその理由が、まさに小谷野の信念を物語る。

「心と体がズレてきて。自分が努力するほど、そのズレが大きくなっていった。今までだったらできたことが、できなくなっていたんです」

 自らの体の動きでさえ“計算”ができなくなった今は、まさに引き際だったのだろう。

 オリックスでプレーしたのは4年間。それでも、前述の後藤のほかにも打席内での考えや、心構えの助言を受けたという選手は少なくない。オフには多くの若手選手が小谷野とともに自主トレを行っていたのも、その考えを聞きたいのも一つの理由だ。だからこそ、“師”の最後の打席をチームメートは目を凝らして見届けた。

 10月5日。京セラドームで行われたソフトバンクとの最終戦。満員のスタンドからは労いの言葉と、別れを惜しむ声がこだまする。守り慣れた三塁、そして一塁ベースでチームメートの手で宙に舞った背番号31。若返りを図るチームが、経験を伝授した先輩に恩返しするには結果を出すしかない。

 数年後、若手が成長を遂げたとき、小谷野の功績は再び光を浴びるだろう。

文=鶴田成秀 写真=佐藤真一
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