需要が増しているリリーバーの中で、ダイヤモンドバックスの平野は、戦前の予想以上の活躍を見せた。来季オフのFAでの動きが楽しみになっている
昨オフ、動きが遅いと言われたMLBのFAマーケットで、例外的に動きが速く、活発だったのがブルペン市場だった。中でも今までは比較的給料が安かったミドルリリーバーが獲得合戦になり、次々に好条件で契約した。
トミー・ハンターが2年1800万ドル、ジェイク・マッギーが3年2700万ドル、パット・ニシェックが2年1625万ドル、ブライアン・ショーが3年2700万ドルといった具合だ。年俸800万ドル以上の契約が続いたのである。
一方で、
オリックスからFAになり、メジャーに挑戦したダイヤモンドバックス・
平野佳寿の契約は2年600万ドルと大して上がらなかった。平野は2011年のオリック時代に72試合に登板し防御率1・94。12年も70試合で2・15と大活躍。当時は、仲の良いヤンキースやジャイアンツのスカウトが、顔を合わせるたびに「最近ヒラノはどうなんだ」と聞いてくるほど、強い興味を持たれていた。
だが近年は、かつてに比べると球速も落ち、評価も下がり、昨オフは獲得合戦とはならず、値段も上がらなかったのである。平野本人に11年当時について聞くと「スタイルは今と違ってスピードボールでどんどん押していた。でもトータルで言うと、今のほうがピッチングができていると思う。カウントとか、点差を見て、初対戦の打者でも、初球は絶対ボールにしたほうが良いとか、あるいはど真ん中でも大丈夫とか、そういうのは経験がないと分からない。投手としての引き出しは増えた。昔に戻りたいとは思わない。衰えるつもりもないし、もっと進化したい」ときっぱり話した。
そして「早く来ればよかったとは1ミリも思わない。12年間、日本でやったことが今生きている」と言う。言葉どおり、今季の平野は、メジャーで上記の良い契約をしたどのミドルリリーバーよりも多くの試合で投げ、防御率も上。ダイヤモンドバックス以外の多くのスカウトの鼻を明かしている。
ダイヤモンドバックスのマイク・ブッチャー投手コーチは、平野が精神的にも肉体的にも安定していることに舌を巻いていた。7月だけ防御率6・52と悪い月があったが、「コロラドで大敗した試合があり、ヨシにも4回に投げてもらったら4失点。あれで数字が悪くなっただけ。調子の悪い試合があっても、次に引きずらないのが良い」と指摘する。
ジョン・ライアン・マーフィー捕手は2014、15年のヤンキース時代は、
田中将大の球を受けていた。「田中のスプリットはほぼ真っすぐのような感じできて、最後にちょっと落ちる。平野のそれはまさにフォークボールで、すごく落ちる」と比べた。
実際、1分あたりの平均回転率は田中の1481回転に対し、平野は1164回転。2200回転前後の真っすぐとの差がより大きい。平野は2年契約で、来季の後にまたFA の権利を得る。35歳になっているが、MLBにおけるミドルリリーバーの重要度はさらに上がっているだろう。
上記のニシェックは37歳での契約だったし、日本のリリーフ投手たちにも夢を与える10億円近い巨額の年俸を勝ち取ってほしいと思うのである。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images