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通算100安打に到達するか?明大のドラフト候補・渡辺佳明のバットに注目

 

かつて横浜高を率いた渡辺元智氏(左)は高校日本代表の壮行試合(8月28日)で、孫である大学日本代表・渡辺(右)を激励した


 残り1カードで8安打。現実的には難しい数字だ。明大のドラフト候補・渡辺佳明(4年・横浜高)は今秋の東京六大学リーグ戦で立大戦を残して、通算92安打としている。

 1925年秋に発足した同リーグ戦で過去に3ケタの大台に乗せたのは、わずか32人。投手なら「30勝」野手ならば「100安打」が4年間、8シーズンの大学野球で一流プレーヤーの証と言われている。

 東京六大学リーグ戦は「2勝先勝」の勝ち点制である。つまり、1勝1敗のタイとなり、3試合を消化できれば、記録への可能性が広がる計算になる。もちろん、現場は勝利のみを目指して戦っているのであって星勘定、ましてや個人記録のためにプレーすることはない。

 とはいえ、4年間の集大成、努力の成果であるから、達成してほしい気持ちもふくらむ。渡辺は過去に1試合3安打(6回)が最多であり、2試合ではやはり、100安打へ到達するのは厳しいハードルと言える。

 しかし、渡辺は不屈の男である。2012年春、横浜高に入学した年だ。渡辺は春夏を通じて甲子園優勝5度の名将・渡辺元智監督(15年夏限りで勇退)の孫であり、注目を浴びてきた。しかし、それは同校へ進んだ時点で「宿命」と受け止め、結果で示すしかないとバットを振り込んできた。当時、同校で渡辺監督と名コンビを組んできた小倉清一郎コーチは「3年後、良い三塁コーチになる」と、卓越した野球勘は認めるものの、選手としての評価は高いものではなかった。そんな言葉も耳に入った渡辺は「ハングリー精神があった」と、人一倍の努力を重ね、2年夏、3年春と一塁手として、甲子園の土を踏んでいる。

 明大では1年時は春、秋で計8安打。その後、6シーズンで84安打を積み上げたのだから、ものすごいハイペースだ。3年時までは三塁手だったが、4年からは遊撃手に挑戦。守備機会の多いポジションで、軽快な動きを見せている。3、4年は大学日本代表に名を連ね、国際舞台も経験。9月8日にはプロ志望届を提出。10月25日に行われるドラフト会議での指名を待っている。

 話は今年1月にさかのぼる。2018年の練習始動日。渡辺は報道陣の前で、学生ラストイヤーの個人的な目標を「100安打」と宣言していた。3年秋の時点で58安打。無謀な設定だと、チームメートで56安打(当時)を放っていた逢澤崚介(4年・関西高)はすぐ横で、苦笑いを浮かべていたのを思い出す。しかし、渡辺はその信念を曲げることはなかった。

 今春は自己最多タイ16安打を放つと、ラストシーズンの今秋も開幕から10試合連続安打と量産。第6週終了時点(10月15日)で、打率部門で打率トップ(.419)に立っている。すでに自己最多を更新する18安打を放っており、不可能だと言われた数字を、ついに視界にとらえたのである。20日からの立大戦、渡辺の1打席から目が離せない。

文=岡本朋祐 写真=高原由佳
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