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【MLB】先発へのこだわりを一時封印。前田健太が得たリスペクト

 

タイブレーク(優勝決定試合)の重要な場面、8回一死一塁から登板した前田。二死からダールから空振り三振を取り雄叫びをあげる。彼のリリーバーとしての活躍が優勝を導いた


 MLBでは、しばしば契約の中身がフィールドでの起用方に影響する。交渉に当たり、来てもらおうと、身分の保証をしたり、起用方法の約束をするからだ。使う側も使われる側もビジネスライクになる。

 そんな中で、チームの勝利のためにと損得勘定抜きで、献身的にプレーする選手は「リスペクト」を得られる。そして昨年、今年とブルペンへの配置転換を受け入れ、勝利に多大な貢献をしたドジャースの前田健太投手は今現在、特に敬意を払われる存在になっている。

 現地時間10月1日、163試合目となったタイブレークのロッキーズ戦、8回表一死一塁。場内アナウンスで「No・18、ケンタ・マエーダ」とコールされると、4万7816人の観衆からひときわ大きな歓声が起こった。「ブルペンから出るときにすごい歓声をもらったので鳥肌が立ちましたし、気持ちも入った」と前田。

 二番のD・J・ラメーヒューをスライダーで三塁ゴロ、三番のデビッド・ダールを2−2から、93マイル(約149キロ)の高めの真っすぐで空振り三振、反撃の芽を摘んだ。9回、マウンドに上ったケンリー・ジャンセンがこの日も2本のソロ本塁打を喫するなど、決して本調子ではない。そんな中、前田が試合の終盤にマウンドに立ち、主軸打者から重要なアウトを取ってくれるのは大きい。

 苦しんだ末にナ・リーグ地区優勝をつかみ、シャンパンファイトで安堵の表情を浮かべるデーブ・ロバーツ監督に8月12日コロラドで、前田に配置転換を伝えたときの話し合いについて聞いた。

「ケンタにチームのために犠牲になってくれと頼んだ。私もチームのみんなもケンタの心中は察しているし、彼のことは先発投手だと見なしている。だが今季、私たちが優勝を成し遂げるには一番良い方法が彼にブルペンに回ってもらうこと。今、彼の働きぶりに私は脱帽する。彼が自分を犠牲にしてくれたことで、私たちはここまで来られたのだ」

 当時ジャンセンが不整脈で離脱し、ほかに安心して最後を任せられる投手がいなかった。チームの大きなピンチに、前田は自らの先発へのこだわりを一時封印した。

 前田本人に「リスペクト」について聞くとこう話してくれた。「チームメートがそういう言葉を発してくれたり、(クレイトン・)カーショーもリスペクトしていると言ってくれたり、それはすごく選手としてうれしいこと。このチームは、チームのためにという選手が全員。そこが強みかなと思う」。

 エースのカーショーにもあらためて聞くと、「利己的ではない無私の気持ちで、ブルペンで力を発揮してくれている。チームメートはみんな感謝の気持ちだ。ケンタなしにはわれわれはここまで来られなかった」と言う。

 もっとも前田には先発投手としての強い自負がある。だから今季について聞くと「(個人的な)達成感はない。先発回数も一番少ないですし、すごく悔しい。(配置転換後は)どういうピッチングをすればずっと先発できるのかなと考えながら過ごしていました。来年また先発で勝負できるようにしたい」と答えた。その心意気や良し。ただ日々ドジャースを取材する立場としては、監督、エース、地元ファンからリスペクトを得た背番号「18」を、心から誇らしく思えるのである。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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