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日米野球でさい配の“引き出し”を増やす稲葉監督

 

11月9日に「2018日米野球」が開幕。稲葉監督が侍ジャパントップチームを率いる(写真はU-23代表合宿)


 監督さい配。投手交代と、攻撃時は一つのサインによって、ゲームの明暗を分けることがある。試合展開における迅速な決断は、過去の経験値から導き出される。つまり、多くの場数こそが、ここ一番での判断材料となる。

 先日、コロンビアで行われたU-23ワールドカップ。日本代表はメキシコとの決勝でターニングポイントとなるシーンがあった。0対0のまま9回を終えて、10回からは無死一、二塁から継続打順によるタイブレークである。

 10回表、メキシコは八番が犠打を決め、九番の適時打で2点を挙げた。追う日本は10回裏、四番・内田靖人楽天)からの攻撃だ。

 2点ビハインド。日本はメキシコと同様にバントで確実に送るか、それとも強攻策で行くか――。二者択一で、稲葉篤紀監督は前者を選んだ。このサインには“伏線”があった。

 稲葉監督は大会前から「1点を取りにいく野球」をテーマに掲げてきた。ベネズエラとのスーパーラウンド第2戦。3対3の8回裏、先頭の内田が中前打で出塁すると、今大会、打撃好調だった五番・安田尚憲ロッテ)に犠打のサインを出している。このスリリングな場面でも19歳のルーキーは動じず、見事にバントを成功させ、結果的に堀内謙伍(楽天)の決勝3ラン(6対3)につながった。

 国際試合において、クリーンアップがバントをするのも、珍しいシーンではない。日本シリーズでも日本一に輝いたソフトバンク内川聖一が確実にバント決めるなど、「短期決戦」において必要な戦術であることは間違いない。

 メキシコとの決勝の10回裏に戻る。稲葉監督は1点を取りにいく方法として、犠打を貫いた。四番・内田はベンチの指示に忠実に従い、一死二、三塁と走者を進めた。続く安田の二ゴロの間に1点を返し、なおも、後続2人が四球を選び二死満塁。しかし、ここであと一本が出ず1対2で敗れ、大会連覇を逃している。

 あくまで結果論だが、内田には強攻策で託してほしかった。稲葉監督は大会前から、主将・内田を攻撃陣のキーマンに指名していた。1点差であるならともかく、2点差。この回、最低でも追いつくためには、相手にプレッシャーを植え付ける意味でも、簡単に一死を与えるのは、もったいない気がしたのだ。もちろん、一死二、三塁でも重圧となるが……。

 内田は今大会、打率こそ.233と低調だったが、堀内の9打点に次いで、安田と並ぶ2位タイの8打点と、勝負強さを発揮していた。仮に内田がこの場面で結果が出なくても、次に生かす反省材料すればいい。ベンチとしても、チームの顔である四番・主将で攻めていったことにより、前向きな失敗と受け止められる。

 先述したように「結果論」だから、稲葉監督のさい配が、あの場面での最善策であったのかもしれない。あくまで、負けた事実をどう真摯に考えるか、である。11月9日からは侍ジャパントップチームによる「2018日米野球」が開幕する。初の海外での指揮となった稲葉監督は、コロンビアでの経験をどう生かしていくのか――。2年後、日本開催のオリンピック本番で金メダルを獲得することが最終目標としてある。今回のMLBオールスターチームとの6試合で、稲葉監督はさらに多くの“引き出し”をさい配術として蓄積していく。

文=岡本朋祐 写真=BBM
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