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平成助っ人賛歌

ジェフ・マント 悲惨な成績で2カ月の在籍で巨人を解雇された“トンマ”/平成助っ人賛歌【プロ野球死亡遊戯】

 

前評判は高かったが……


キャンプ参加初日、長嶋茂雄監督(左)と握手を交わすマント


「やっぱり主役なんだよ。『華麗なる一族』だって、筋が分かっていても、キムタクが出てるから視聴率がいいんだ」

 元巨人GM清武英利氏の自著『巨魁』よると、かつて読売のドン渡邉恒雄氏はそう語ったという。テレビドラマもプロ野球もあらゆるエンタメは魅力的な主役の存在が生命線だ。その木村拓哉が『ロングバケーション』や『協奏曲』といった出演テレビドラマで高視聴率を叩き出していた1996年、巨人にはひとりの“主役になりそこねた外国人選手”が入団した。

 ジェフ・マントである。開幕直後にナベツネさんの平成球史に残る迷言「とにかくマントが悪い。クスリとマントは逆から読んだらダメ」と言わしめたあの助っ人である。31歳で推定年俸1億5000万円、ペンシルベニア州出身の長身イケメン内野手は、「オリオールズであのカル・リプケンの横でサードを守り、95年にはメジャータイ記録の4打数連続アーチを含む17本塁打を記録したスラッガー」の前評判で来日した。

 阪神時代の新庄剛志が表紙を飾る『週刊ベースボール』96年3月4日号には、『新助っ人ここに注目』特集において「マジメで練習熱心、そして何よりクレバーな頭脳の持ち主!! V奪回のカギを握る「ジェフ・マント」という男」が掲載されている。「若手への切り替えを図っている長嶋巨人にあって、誰もが首をかしげたキャンプ直前の助っ人三塁手獲得劇」だったが、キャンプイン後に「左にも右にもオーバーフェンスできる天性の長打力、そして頭を使ったプレースタイル」と評価が急上昇。紅白戦では木田優夫からレフトスタンドへ弾丸ライナーの初アーチをかっ飛ばし、打撃投手やボール拾いの学生などにも、覚えたてのたどたどしい日本語で「ドウモ、アリガト」と頭を下げるジェントルマンだという。

 あのクロマティと同じ背番号49を背負う新戦力に、評論家の谷沢健一氏も「横浜のロバート・ローズに似た柔らかい打撃で打率2割8分〜9分、ホームラン25本はいける。三塁守備を見る限り、やっていける許容範囲内で、これが1億円ちょっとの買い物なら掘り出し物だと思います」と絶賛。長嶋茂雄監督は「彼はテンプル大卒で頭がいい。我々ボンクラじゃ入れません」となんだかよく分からない褒め言葉を送り、それに対してマントも「自分のセールスポイントは頭を使った野球」で「監督のナガシマさんがたくさんの外国人選手を見てきて、いろいろなものに慣れるのに時間がかかるだろうと理解してくれている」なんつって爽やかにニッポンの新たなボスを歓迎した。

開幕10試合目でスタメン落ち


キャンプでは長打力打撃を発揮していたマント


 しかし、オープン戦が始まると日本の投手の攻めや人工芝での三塁守備に苦しむ新助っ人を横目に、前年4本塁打の期待の若手・吉岡雄二が1試合2発の活躍を見せ、一塁ではなく三塁で吉岡を使えという声が日に日に大きくなる。週刊ベースボールの『96オープン戦あらかると』にも「マント不用の春 連日スーパー打撃を披露する吉岡を一塁手で起用する巨人のフシギ」という記事が確認できる。結局、吉岡はマント獲得のあおりを食らい出場機会を失い、このオフに近鉄・石井浩郎の交換相手として石毛博史とともにトレード移籍。やがて長距離砲の素質が開花すると、2001年には26本塁打を記録し、“いてまえ打線”の一角を担い近鉄最後の優勝に貢献したのだから、逃した魚は大きかった。

 マントは阪神との開幕戦こそ「七番・三塁」で先発出場するも、開幕10試合目で長嶋一茂にポジションを奪われスタメン落ち。春季キャンプでは「ローズになれる」と絶賛されたスラッガーは、出場10試合で27打数3安打の打率.111、1打点、本塁打なしという悲惨な成績に終わり、4月23日に遠征先の宿舎で監督に呼び出され、わずか2カ月の在籍で解雇されている。やはり外国人選手の前評判はまったくあてにならないという教訓を残し、マントは東京を去った。なお数年後に、帰国後は数シーズンにわたり3Aで一定の成績を残していることからも、せめて長嶋さんもあと1カ月我慢していれば……という声が挙がったことも付け加えておきたい。

「彼女にも車を買ってやらなくちゃ」


 ちなみに来日前のマントの年俸は10万9000ドル(約1200万円)である。それが巨人ではプレーする前から一気に年俸1億5000万円へと跳ね上がり、ハングリーさは失われた。帰国後、ボストン・レッドソックス傘下の3Aポータケットでプレーしているところを『週刊現代』に直撃取材され、「巨人には感謝の気持ちでいっぱいだよ」とご機嫌に語ったテンプル大卒の男。球団都合の解雇のため給料は全額保証され、毎月25日に巨人から振り込みがあるという。日本で稼いだ“1億5000万円のビッグボーナス”の使い道についてトンマじゃなくて、マントはこう言っている。

「カネの使い道かい? ロールスロイスの新車を買ったばかりさ。それと今、ニューヨークの郊外にワイフが新居を物色中なんだ。そっちに引っ越したら、彼女にも車を買ってやらなくちゃ」

文=プロ野球死亡遊戯(中溝康隆) 写真=BBM

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週刊ベースボール編集部

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