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川口和久WEBコラム

球界にも『デューダ』を作ろう!/川口和久WEBコラム

 

イベント化が進むトライアウト。今年もお客さんがぎっしりだった


 西武浅村栄斗楽天炭谷銀仁朗巨人移籍が決まり(炭谷はほぼかな)、次のFA組の大物は広島丸佳浩か。

 人生には進学、就職、結婚とか、いろいろな転機があるけど、俺がその中で一番エネルギーを使ったのがFAだった。解禁から行使宣言の締め切りまでの1週間は毎日何をしてたのか、まったく覚えていない。

 要は“妄想”で頭がいっぱいだったんだ。
 このままカープに残ったらどうなるのか、ほかのチームに入ったらどうなるのか、それとも、どこも手を上げてくれず、野球をやめなきゃいけないかも、とか。
 たとえばカープに残った自分を考えても、そのときどきで成功したり、失敗したりするんだ。ほんと、いろんなことを考えた。あれを堂々巡りというのかな。
 
 結局、行使しようと決めたのは最終日の夕方、18時くらいかな。球団からは申請用紙だけもらっていたけど、まだ白紙のままだった。
 ただ、考えてみると、これから急いで向かっても球団事務所はもう閉まっている。そのとき思い出したのが、ファックス。送れば日付が入っているからね。
 当時、ファックスは出たてのころで、会社には置いてあるところが増えていたけど、家庭用なんてほとんどなかった。

 だけど、俺は持ってた。ゴルフ大会の賞品さ。ただ、別に必要ないと思っていたんで、箱からも出さず物置に放り込んだままだった。
 あわててそれを探し、説明書を読みながらセットして申請用紙に書き込んで球団に送った。1回、送ってから、もし届いてなかったらどうしようと思って、もう1回送ったことを覚えてる。
 バタバタの1週間だった。
 この話は、来週発売の『週べ』の移籍特集でインタビューを受けているので、そちらでどうぞ。

 あのときはFAができて2年目だったけど、比べるといまはFA移籍もそこまで重いものじゃなくなった。
 一般社会と同じだよね。少しずつだけど、終身雇用から転職が当たり前の時代になってきた。

 ヘッドハンティングされての華やかな転職がFAだとしたら、ハローワークに通っての転職が合同トライアウトだ。

 48選手が参加したらしいが、現実には12球団からの“求人”はほとんどなく、独立リーグに進む選手のほうが多いくらい。独立リーグはシビアだよ。給料も下がるから特に家族がいたら野球だけではとても生活はできない。大部分がアルバイトをしながらになる。

 俺はテレビで見ていたけど、参加者のモチベーションもさまざまだった。
「何とかNPBで続けたい」という気持ちまでは一緒だけど、そこから先は「NPB以外ならやめる」「独立リーグに行ってでもNPB復活のチャンスを探る」「NPBに戻れなくてもいいから野球を続けたい」。なかには、もう「引退を決めているが、最後にケジメとして」みたいな選手もいた。

 数少ないトライアウトからの採用組が元巨人の中井大介。無事、DeNAに決定した。巨人では四番を打ったこともある右のスラッガーで、俺もコーチ時代に一緒にやったが、センスのあるいい選手だった。ただ、ここぞの決定力に欠け、大事なときに大きなケガをした不運もあった。

 プロは実力の世界だけど、それだけじゃない。うまくチャンスをつかみ、首脳陣に信頼されなきゃ継続して使ってはもらえない。
 しかも、そのチャンスって何度も来るわけじゃない。同じ力があっても、それをつかめずやめていく選手がいれば、うまくつかんではい上がっていく選手もいる。

 中井が新しい球団でどうなるかは分からないが、チャンスはあると思う。新しく取った選手は最初は使いたい、と思ってくれるはずだからね。そのチャンスをものして大化けできるかどうか。頑張れよ、中井。

 でも、いっそオフと同時に、転職サイトの『デューダ』プロ野球編を作ってもいいかもしれないね。戦力外の選手と二、三軍選手に加え、一軍半でくすぶっている選手も対象にし、各球団で採用条件を固め、求人をするんだ。「20代、遊撃、セカンドこなせる内野手、遠投100メートル以上、一軍経験者厚遇」とかね。

 それで球団別に公開のテストをする。合同トライアウトでちょこちょこと数打席や数人に投げるより、よっぽど確実な気もする。戦力の入れ替えで各球団の若手の活性化にもつながるかもしれないしね。
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