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社会人野球リポート

PL愛を貫く――。どん底から復活しタイトル3冠に輝いた日立製作所・岡崎啓介

 

初の社会人ベストナイン


日立製作所で入社7年目の岡崎は、社会人ベストナイン、最多本塁打賞、最多打点賞と社会人のタイトル3冠に輝いた。高校3年間を過ごしたPL学園高での教えがいまも、根底にある


 2015年秋、岡崎啓介は大阪府富田林市にあるPL学園高を訪ねた。高校で同期だった千葉和哉がコーチを務めていたという縁があり、愛する母校の行先を心配し、自然にグラウンドへと足が向いたのだ。しかし、目の前に広がっていた光景は想像を絶していたという。

「自分たちとは比べものにならないくらい、廃れた環境で練習していて……」

“最後”の代として、残った部員はわずか12人――。監督も野球経験者ではなかった。旧チームの段階で、推薦で入学してきた有力選手は不在であり、レベルが高いとは言い難かった。しかし、変わらなかったのは白球に対するひたむきさ。脈々と受け継がれたPL魂――。16年夏限りで、名門・PL学園高は休部状態となっている。再開のメドは立っておらず、その未来は誰にも分からない。

 2018年10月25日のドラフト会議で東洋大・中川圭太オリックスから7位指名を受けた。各方面から「PL学園最後の戦士」と言われた。約1カ月半後の12月13日、再び「PL」の名が脚光を浴びる機会が訪れた。入社7年目の日立製作所・岡崎が初の社会人ベストナインに選出され、表彰を受けたのである。

 岡崎は高校時代、前田健太(現ドジャース)の1学年後輩で、2年春のセンバツで4強に進出(三番・遊撃手)した。四番だった立大では4年春に首位打者を獲得するなど、通算8本塁打をマーク。当時、クリーンアップを組んだ那賀裕司(三菱重工神戸・高砂)がこの日、外野手部門で社会人ベストナインを受賞し、二重の喜びとなった。

 岡崎はベストナイン(一塁手)だけでなく、個人表彰の最多本塁打賞(6)、最多打点賞(20)のタイトル3冠に輝いている。壇上に立った岡崎は「ここに立っているのが、信じられません」と語った。正直な思いである。

「フライボール革命」を取り入れて


 ちょうど1年前、岡崎は野球人生のどん底にいた。11月の社会人野球日本選手権では先発から外れ、チームが敗退した2回戦(対パナソニック)では代打出場。三振を喫して「引退」の2文字を覚悟した。だが、面談を経て2018年の現役をつなぎ止めた。岡崎と言えば、フルスイングが持ち味。しかし、近年は結果をも求めるあまり、安打狙いで、知らず知らずのうちに振りが小さくなっていたという。

 後悔したくない――。

 岡崎はラスト1年と位置付けた18年、打撃改造に踏み切った。メジャー・リーグで流行っている「フライボール革命」にならって、岡崎も取り入れた。この取り組みが功を奏して、打棒復活。チームの信頼を得て、今季の再浮上につなげたのだ。昨年9月には長男・蒼大君が誕生。「子どもに自分のプレーを見せたい」というモチベーションも飛躍の一因であった。「良いことをすると、良いことが、かえってくる」。PLの教えも支え。グラウンドでは常に目を配り整理整頓に努め、自宅では祐里夫人の家事を手伝った。

 来年7月で30歳。まだまだ老け込む年齢ではない。岡崎がユニフォームを着続けたい理由には、もう一つある。

「PLが復活することを願っています。どうなるか分かりませんが、そこまでは現役でいたいと思う」

 さらにこう続けた。

「最近は大阪桐蔭に持っていかれている。立教は昨春、リーグ優勝を遂げ、日本一にもなりましたし、まずはPLに思いを注ぎたい」

 たとえ休部であっても、OBはPL学園高のスピリットをしっかりと継いでいく。

文=岡本朋祐 写真=小山真司
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