週刊ベースボールONLINE

プロ野球1980年代の名選手

大島康徳 “負くっか!”の精神を貫いたプロ26年/プロ野球1980年代の名選手

 

1980年代。巨人戦テレビ中継が歴代最高を叩き出し、ライバルの阪神はフィーバーに沸き、一方のパ・リーグも西武を中心に新たな時代へと突入しつつあった。時代も昭和から平成へ。激動の時代でもあったが、底抜けに明るい時代でもあった。そんな華やかな10年間に活躍した名選手たちを振り返っていく。

15年目の本塁打王



 1983年に36本塁打を放って、本塁打王に輝いた中日の大島康徳。プロ15年目、遅咲きの花が満開となった瞬間だったといえる。入団は69年。そこから、ゆっくりと開いてきた花だったが、それだけに、そう簡単に散ることはなかった。しぶとく、長く咲き続け、それどころか、まるで花を残しながら実をも結んだかのように、26年にわたる現役生活をまっとうする。一貫していたのは「負くっか!」の精神。地元の大分弁で「負けるか!」の意だ。

 若手時代から長打力は別格。投手としての入団だったが、水原茂監督に言われて、すぐに野手へ転向している。だが、器用なタイプではなく、一軍デビューは3年目の71年だった。6月17日のヤクルト戦(中日)で初出場すると、右中間へ2ラン本塁打。鮮烈なデビューだったが、その後は先発で出場するとバットが湿り、控えに回されると代打で本塁打。

「そろそろファーム落ちかな、と思うと、ポンと一発が出るんです」

 Vイヤーの74年は66安打ながら11本塁打。ロッテとの日本シリーズでは第6戦(ナゴヤ)で6回裏に同点ソロ本塁打を放った。76年にはシーズン代打7本塁打のプロ野球新記録。もちろん、不動のレギュラーなら樹立できないものだ。2つ上の兄が亡くなったことも契機となり、バットを振る量を増やし、基礎練習で自ら妥協しないラインを決めた。これが結果につながる。打席でも余裕が生まれた。

 翌77年に三塁でレギュラーの座をつかむと、自己最高の打率.333。79年には一塁手として自己最多の36本塁打、103打点で、159安打はリーグ最多でもあったが、打撃3部門で同じ一塁手でもある巨人の王貞治を上回りながら、ベストナインには選ばれなかった。結局、ベストナインには最後まで縁がなかったものの、

「王さんは雲の上の人。悔しくはないよ」

 80年は一塁と三塁の併用。翌81年からは外野が増えてくる。続く82年は左翼がメーンとなり、五番打者として優勝に貢献。日本シリーズでは西武に屈したが、第5戦(西武)の5回表に先制ソロを放っている。ただ、個人成績は前年に比べて下降。奮起して迎えたのが83年だ。7月までで広島山本浩二に13本も離されていたが、8月だけで10本塁打と猛追。同じく8月に10本塁打を放った阪神のバースと三つ巴のタイトル争いになる。そして10月にラストスパートの8本塁打。やはり10月だけで10本塁打のバースを1本差でかわして、山本と本塁打王を分け合った。

円熟味を増した日本ハム時代


 翌84年も30本塁打。前年と同様に左翼で全試合に先発したが、試合の終盤にはベンチに下がった谷沢健一に代わって一塁に回るパターンも多く、長距離砲には珍しく守備で器用さを発揮した。ただ、85年から一塁と外野の併用となると、長打力は相変わらずだったが、じわじわと安定感を失っていく。以降3年連続で規定打席に届かず。87年には星野仙一監督が就任し、惜しくも2位に終わると、大胆なチーム改革が進められる。すでにプロ19年目の大ベテランとなっていた生え抜きだったが、節目となる20年目は日本ハムで迎えることになった。

 移籍1年目から2年連続で全試合に出場、守備では一塁手に専念する。そして90年8月21日のオリックス戦(西宮)で、通算2000安打に到達。39歳10カ月の達成は当時の最年長記録で、2290試合での達成は、やはり当時もっとも達成に要した試合数だった。

 投手から転向し、パワーばかりの不器用な若き右打者は、20年を超える時間を経て、ふたたび代打の切り札となる。さすがに長打力には陰りが見えたが、打撃は円熟味を増していた。

「配球が読めた。打席に入るのが楽しかった」

 94年5月4日の西武戦(西武)ではグランドスラム。43歳6カ月での満塁本塁打は現在も最年長記録として残る。オフに現役引退。日本ハムでは指名打者も少なくなかったが、現役通算で外野1115試合、一塁1000試合、三塁437試合。1試合だけだが二塁も守っている。内野、外野ともに1000試合を超えるのは珍しい。地味ながら誇るべき勲章のひとつだ。

写真=BBM
週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部が今注目の選手、出来事をお届け

関連情報

みんなのコメント

  • 新着順
  • いいね順

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング