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川口和久WEBコラム

ピッチャーは自分に酔え?/川口和久WEBコラム

 

現役時代の水野



 少し前にグアムに行き、仕事兼バカンス(バカンス兼仕事?)をしてきた。向こうには家族連れのプロ野球選手も結構いた。1月は自主トレもあるから12月が家族サービスの期間なんだね。

 仕事で一緒だったのが、来季から巨人の投手コーチに復帰した金太こと水野雄仁。池田高校では投打で大活躍し、2度の甲子園優勝も果たした“阿波の金太郎”だ。
 巨人では最初が先発で後半からは中継ぎをした。高校時代の印象からすると物足りないかもしれないが、いいピッチャーだった。肩を壊さなきゃ、まだまだ行けたと思う。

 一緒にゴルフをしながら来季の巨人の投手陣の話もした。菅野智之が軸としているのが大きい、あとは抑えかな、という話をしていた。
 
 彼は俺が広島からFAで巨人に入ったとき、最初に親しく話してくれ、仲良くなった男でもある。
 ピッチングに関しては、引退間近で肩痛と戦っている時期だったけど、広島時代から見ていて感じたのは「対応力」の高さだった。
 決して体が大きいほうじゃなかったし、びっくりするような球を投げたわけじゃない。

 ただ、思い切りがよかったし、その場面、場面で最適な1球を投げる力を持っていた男だった。野球センスの塊というのかな。本人は否定するかもしれないが、決して努力ではい上がってきた男じゃない。臨機応変の対応力でプロの世界でも勝負した天才肌のピッチャーだった。

 ふつう天才肌の選手はコーチがうまくできない。伝え方が分からないんだ。ただ、水野は故障と闘った経験に加え、体の動かし方だけじゃなく、言葉の使い方、人との関係性でも高い「対応力」を持っている。
 解説を聞いたことがある人は分かると思うけど、非常にクレバーな男で、分かりやすく、かゆいところに手が届くような話をする。俺も「なるほど、この見方、俺もやってみようか」と参考にしたことも何度もあった。

 コーチ復帰は久しぶりだけど、前回のコーチ時代を知る関係者からも水野のコーチとして資質を評価する声は多い。
 俺もそう。彼の臨機応変な投手起用が楽しみだね。

 この間、新聞で、水野が選手たちに「マウンドでは巨人の代表として投げる気持ちで」というのと「自分に酔って投げろ」という話をしたと聞いた。要は解説者水野の目から、いまの巨人の投手が自信を失っているように見えたんだろうね。

 最初の言葉は、巨人伝統の言葉で俺も聞いたことがあるが、自分に酔え、はさすが水野と思った。
 コーチになると、どうしたって「俺の言葉を信じろ」とか「もっと慎重に投げろ」と言いがちだからね。

 紙一重なんだが、ピッチャーがマウンドで自分に酔うのは大事。慎重さや繊細さも必要だけど、「きょうの俺の球はいけている」という気持ちがないと思い切って腕を振れない。広島時代はまた捕手の達川光男さんが「ええぞ、カワ」とおだててくれるから、気持ちよく酔えた。

 そう言えば、水野が一つだけ心配だと言っていたことがある。
「張り切り過ぎてるんじゃないかな」
 だってさ。もう一人の新コーチ、宮本和知だね。宮本、肩の力を抜いていいよ。救援は水野にお任せさ。
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