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プロ野球1980年代の名選手

衣笠祥雄【前編】不屈の闘志で試合に出続けた鉄人/プロ野球1980年代の名選手

 

1980年代。巨人戦テレビ中継が歴代最高を叩き出し、ライバルの阪神はフィーバーに沸き、一方のパ・リーグも西武を中心に新たな時代へと突入しつつあった。時代も昭和から平成へ。激動の時代でもあったが、底抜けに明るい時代でもあった。そんな華やかな10年間に活躍した名選手たちを振り返っていく。

プロ野球新記録を通過点に


飯田徳治が樹立したプロ野球記録の1246試合連続出場を更新した広島・衣笠


 その姿は、広島の公式戦には必ずあった。まれに主砲の山本浩二やリードオフマンの高橋慶彦がいないことはあっても、衣笠祥雄の姿だけは例外なく、グラウンドにあったのだ。

 1980年8月4日の巨人戦(後楽園)でも、それは同じだった。「三番・三塁」で先発出場。これだけなら、ファンにとっても、おそらくは当人にとっても、ごくありふれた光景だっただろう。ただ、数字の世界では、少し事情が違った。この試合で70年から途切れることのなかった連続出場は1247試合目となる。1リーグ時代の40年代から2リーグ制となった50年代にかけて、そして南海から国鉄にかけて、飯田徳治が樹立したプロ野球記録の1246試合連続出場を更新。静かにプロ野球記録の頂点に立った瞬間だった。

 このとき、プロ16年目の33歳。さすがに重圧を感じたという。確かに、ひとつの頂点だったことは間違いなかった。だが、これが実は通過点に過ぎなかったことが分かるためには、もう少し時間を必要とする。

 その前年、広島が初の日本一に輝いた79年は、打撃が極度の不振に陥り、三宅秀史(阪神)のプロ野球記録に残り22試合と迫っていた連続フルイニング出場が5月に678試合でストップ。8月には巨人の西本聖から死球を受けて左肩甲骨を亀裂骨折、連続試合出場も危ぶまれた。だが、翌日の巨人戦にも代打で登場、江川卓に対して普段と同様のフルスイングで3球三振。その姿を見た広島ナインは奮起して、5位から日本一へと駆け上がっていく。

「1球目はファンのために、2球目は自分のために、3球目は西本くんのために」

 こう当時は語っていたが、この場面を、のちに笑いながら振り返る。

「あの日の江川は最高でしたね(笑)。僕も当たると思うから振ったけど、当たらなかった。(西本の)デッドボールには2つの失敗が重なったんですよ。ひとつは西本くん。指先の何ミリかの誤差が18.44メートルを来る間に誤差が大きくなって僕の背中に向かってきた。もうひとつは僕が逃げ方に失敗したんです。真っすぐ当たれば大きな衝撃になるけど、斜めに当たればスリップするんです。その逃げ方を失敗して亀裂骨折になった。僕は球界の先輩ですから、うまくよけてやれればよかった」

 死球を与えて、すぐに謝りに来た西本に、一触即発という両チームの雰囲気を察して「すぐにベンチへ戻れ」と言ったとも伝わる。

一塁と三塁を兼ねて


 中学で柔道部に入るつもりが、その柔道部が中学になく、やむなく野球部へ。

「最初に魅力を感じたのがバッティングです。力いっぱい振って、どこまでボールが飛ぶのかな、と。最初に見つけた魅力ですが、それを最後まで思っていました」

 捕手として65年に入団。のちの姿からすれば意外だが、すぐに肩を壊した。

「まだプロ野球というものが分からなかった。故障したこともありますし、練習が終わった後に何を考え、何をすべきか分からなかったんです。最初の2年は言われたことを、そのままやっていただけですね。自分で考えるようになったのは3年目、根本(陸夫)さんがコーチでいらしてからです。(捕手を)2年半やっていましたが、根本さんに、もうやらなくていいから、と言われて、クビになった」

 そして一塁手に転向。根本が将来の編成を考えての配置転換でもあった。そして打撃は関根潤三、守備は広岡達朗の両コーチに鍛えられる。

「(関根は)1年でしたが、もっと教えていただいていたら、もっといい選手になっていたんじゃないかな(笑)。土台づくりの時期に、そういう方と出会えたことで、長く野球をやらせてもらったと思っています。広岡さんには一塁手としてだけでなく、内野手としての心構えも教えていただいた。とても恵まれていたと思います」

 68年に一塁手として頭角を現し、70年に連続試合出場がスタート。74年までは背番号が28番で、当時の人気漫画『鉄人28号』から“鉄人”と呼ばれるようになる。75年の初優勝には三塁手として貢献し、80年代は三塁と一塁を兼ねながら出場を続けた。

写真=BBM
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