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プロ野球1980年代の名選手

衣笠祥雄【後編】世界の頂点に立った男の野球哲学/プロ野球1980年代の名選手

 

1980年代。巨人戦テレビ中継が歴代最高を叩き出し、ライバルの阪神はフィーバーに沸き、一方のパ・リーグも西武を中心に新たな時代へと突入しつつあった。時代も昭和から平成へ。激動の時代でもあったが、底抜けに明るい時代でもあった。そんな華やかな10年間に活躍した名選手たちを振り返っていく。

20年目のキャリアハイ



 1980年に連続試合出場のプロ野球記録を更新し、その後も休むことなく出場を続けた広島の衣笠祥雄。83年には通算2000安打にも到達したが、まだ打率3割はなく、打率3割なしでの到達は巨人の柴田勲に続く2人目だった。また、76年には31盗塁で盗塁王となり、72年にはリーグ最多の147安打を放っているが、当時は打撃タイトルではなく、バットによる打撃タイトルも未経験だった。

 それがプロ20年目となる翌84年、衰えるどころか、長打力や勝負強さを残したまま、まるで新境地を開いていくかのように安定感を見せ始める。リーグ3位の打率.329で、初の3割をクリア。わずかに自己最多には届かなかったが31本塁打を放ち、自己最多の102打点で打点王、MVPに。序盤は精彩を欠いた山本浩二をフォローして余りある活躍で、リーグ優勝、日本一の立役者となった。

「それまでは、いい場面で、いいヒット、ホームランを打ちたかった。結論としては、3割を打ちたかったら、打席に入ったらヒットを打つことに執念を燃やせばいいんです、全打席で。ただ、遅かったねぇ、これに気づくのが(笑)。僕が少しだけ自慢に思うのが、それが20年目だったこと。頑張れば20年目に自己最高の成績を残せるんですよ。夢を追いかけて、最後まであきらめなければ、そういうこともある。僕は、それがうれしかった。やったぞ、って。いまの選手にも、これをやりたい、と思うことがあれば、あきらめずにユニフォームを脱ぐまで追及してほしい。僕ができたんだから君もできるよ、って言いたいんです。簡単じゃないですよ、20年もやると妥協したくなる。けど、僕は妥協しなかった。だから、できたんです」

 連続試合出場については、

「入団して3年間は思うように、試合に出られなかった。その悔しさがあります。出るチャンスをいただけるなら、自分からノーはない。毎日、不安でしたよ。監督は今日も使ってくれるんだろうか、と。でも監督が名前を書いてくれた以上、チームのために何ができるかしかない。故障しても何しても、『出るか』と言われれば、『大丈夫です』しかなかったですね」

 こう語る一方で、

「一人で積み上げた、たとえばホームランの記録のようなものであれば、(故障や不振で)やめていたでしょうね。でも、連続試合出場というのは自分だけでできたわけじゃない。大勢の人にお世話になってできるもの。トレーナーの人に治療してもらい、打てないときにはバッティングコーチ、監督にもお世話になる。そういう記録を自分だけの判断でやめるというのは無責任じゃないかと。続けられるだけ続けるのが自分の責任じゃないかと思ったんです」

 一言一句にも人柄がにじみ出る。だからこそ多くの人が真剣に支えたことも想像に難くない。そして、そんな周囲の支えに、感謝とともに責任をもって応えていった。

「もし明日、選手登録されたら……」


 87年6月13日の中日戦(広島市民)。連続試合出場は2131試合となり、ルー・ゲーリック(ヤンキース)のメジャー記録をも上回る。ついに世界の頂点に立った。その9日後の22日には国民栄誉賞も授与される。だが、閉幕まで22試合を残した9月21日に引退を発表。

「自分に対して、なぜもう少し頑張らないのか、と思う。自分に、ご苦労さん、は言わない」

 連続試合出場の世界記録をストップさせたのは、その引退だった。のちに振り返る。

「まだまだバッティングはできると思っていたし、試したいこともあった。ただ、僕は攻守走の三拍子がそろってこそプロという意識があったんです。あのときは、もう守備がうまくなれないなと思ったのと、盗塁する勇気がなくなってきた。だから引退を決意しました」

 連続試合出場は最終的に2215試合。だが、広島が25年ぶりにリーグ優勝に輝いた2016年、こんなことも語っている。

「誰も言ってくれないけど、もし僕が明日、選手登録されて試合に出場したら、この連続試合出場がつながるんですよ。笑われるかもしれないけど、僕の中で、それはずっと思っています」

写真=BBM
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