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【MLB】6試合に1試合は1イニングのみ、画期的な菊池雄星への順応プラン

 

菊池がメジャーの登板間隔にしっかりフィットするためのプランを提示したマリナーズのディポトGM。これが成功すれば、来季以降挑戦しようとする日本人メジャー投手の後押しにもなる


 西武からマリナーズへ移籍した菊池雄星の入団会見で、ジェリー・ディポトGMが明かした初年度の起用プランはとても良いアイデアだと思った。

「最初から目いっぱいは投げさせない。シーズン30試合から32試合の先発で、6度に1度はブルペンの日にする。先発投手は1イニング、あるいは約30球を投げるだけ。それで(シーズンの)球数や疲労をコントロールする。(中4日の)ルーティンを維持しながら休みも取れる」

 この起用法はMLBでは珍しいが、マイナー・リーグではマリナーズのみならず複数の球団がプロスペクトの育成目的で実施していると言う。「1年目から190イニングも投げなくて良い。メジャーの投手として成長していく第一歩」との説明だった。菊池の代理人、スコット・ボラス氏は「日本から来る投手は技術的な面では優れていても、体の面で長いシーズンを乗り切るのに苦しみ、しばしば手術を受ける羽目になった。ディポトGMはそこを考慮した順応プランを示してくれた。日本の中6日からメジャーの中4日に慣れるのに良いアプローチ」と高く評価している。 

 ボラス氏はご存じのように松坂大輔の代理人だった。松坂は2007年、1年目から公式戦、ポストシーズン合わせて224回1/3を投げレッドソックスの世界一に貢献したが、3年目以降は肩ヒジのケガに苦しんだ。

 ダルビッシュ有田中将大も、ポスティングフィーを含め1億ドルを超す高額投資ゆえにすぐに結果を求められ、世界トップレベルの実力は見せられたものの、ヒジを痛め戦線離脱を余儀なくされた。おかげで「日本人投手3年限界説」など不名誉なレッテルも貼られた。

 そんな中、マリナーズは菊池に最初の3シーズンで4300万ドルという大金を保証しながら、すぐに結果を求めず、徐々に慣れさせていくという。マリナーズが再建へと舵を切り、即、勝たなくても良いという球団事情があるとはいえ、これは英断である。もっともこういった無理を避け、体を守ろうという姿勢は、今、MLB全体で見られる新たなトレンドでもある。

 一流先発投手の証と言われた年間200イニングにはこだわらず、ウェアラブル端末などで疲労度を細かくチェック。試合で早めに交代させたり、登板を回避させたりする。DL(故障者リスト)期間も最短15日間だったのが10日間になり、休ませやすくなった。こうすることで、ポストシーズンなどチームがその投手の力を最も必要とするときに万全の状態で臨めるようにする。

 ちなみに14年から18年の間で、先発投手の平均の球数は96球から89球に減り、200イニングを投げる投手も15年の28人から、18年は13人と減少。マイナーも含めたトミー・ジョン手術を受けた投手数も、14年が130人、15年が143人と多かったが、16年は122人、17年は100人、18年は100人を切った。

 もし菊池がこの起用プランを生かし、ケガなく着実に成長できていれば、3年後、マリナーズは今回の契約条項にあるチームオプションの4年6600万ドルの延長を喜んで選択するだろう。ディポトGMは「球団にも選手にも恩恵をもたらす契約」と言うが、菊池の後に来る日本人投手にも朗報だと思う。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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