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プロ野球1980年代の名選手

広沢克己 若きヤクルト大砲の“三振理論”?/プロ野球1980年代の名選手

 

1980年代。巨人戦テレビ中継が歴代最高を叩き出し、ライバルの阪神はフィーバーに沸き、一方のパ・リーグも西武を中心に新たな時代へと突入しつつあった。時代も昭和から平成へ。激動の時代でもあったが、底抜けに明るい時代でもあった。そんな華やかな10年間に活躍した名選手たちを振り返っていく。

迫力ある三振が代名詞



「僕は足が遅い。併殺の可能性もある詰まったゴロを打ちたくない」

 ヤクルト1年目の1985年から規定打席未満ながらリーグ最多の102三振を喫し、以降8年連続100三振をクリア(?)。通算306本塁打を放った一方で、1529三振を喫したのが広沢克己だ。若手時代、当てにいくバッティングをすると、関根潤三監督から「小さいぞ」と怒られたという。90年代に入って、野村克也監督となってからも、三振は多かったが、

「狙い球を絞り、勝負にいった三振です」

 と力説する。詰まった打球を打たないために、球をとらえるポイントを前に置いたことで、球の見極めが難しくなり、よって三振が増えた。ただ、走者がいる場面で打席が回ってくることが多い四番打者としては、併殺で走者も巻き添えにして二死を献上するよりは、三振で一死にとどまったほうが良いのではないか。これが本塁打だけでなく、あるいはそれ以上に、迫力ある三振が代名詞だった男の“三振理論”だった。

 83年に東京六大学リーグ2人目となる春秋連続首位打者に。翌84年のロサンゼルス五輪で日本代表に選ばれ、米国との決勝戦で本塁打を放って金メダル獲得の原動力となった。そしてドラフト1位で85年にヤクルト入団。

「明大時代は(ヤクルトの本拠地でもある)神宮球場で試合をしていましたから、ヤクルトの選手を身近に感じていました。最初に間近で見たプロ野球選手は安田猛さんでした。『ケツでっかいなぁ、でも体は小っちゃいな』って(笑)。(入団した)当時のヤクルトは広岡(達朗)監督時代の管理野球の名残も少しあったんですが、(入団時の監督だった)土橋(正幸)さんは万年Bクラスのチームを何とか改革したいという気持ちがあって、新旧交代じゃないけど、入れ替えを図っていたのは事実なんです」

 まだ下位を打つことが多かったが、1年目から正一塁手の座を確保して18本塁打。2年目には初の規定打席到達で16本塁打、3年目には外野手に転向して初の全試合出場で19本塁打。4年目の88年には自己最多の30本塁打。同じく30本塁打を超えた池山隆寛と“イケトラ・コンビ”と呼ばれて人気を集めた。なお、“トラ”は浪曲師で同姓の広沢虎造が由来とも、映画『男はつらいよ』の主人公“フーテンの寅さん”に風貌が似ていたからとも。この2人の陽気なキャラクターもあって観客動員数は徐々に増えていったが、ヤクルトは低迷を続けた。

「お客さんが増えたのはうれしかったけど、逆に勝ちたいという欲求も出てきた。巨人に勝ち越すなんて夢のまた夢だったし、中日広島も強かった。この3強を崩すことは僕の中では難しいなと思っていましたよ。当時はね」

 90年代に入ると一塁手に戻り、野村監督の“ID野球”でも主砲を担って、ヤクルトは黄金時代に突入していくことになる。

右方向への長打が多い理由


 本塁打か三振か、という長距離砲は典型的なプルヒッターであることが少なくないが、右方向へ流すテクニックに加え、それを長打にする卓越したパワーが最大の特徴だった。その理由は、柔道で鍛えた右上腕三頭筋の力で右方向への打球も伸びたこと、外角球に狙いを絞っていたこと、そしてチームの勝利を最優先に、いかに走者を生還させるかを考えたことだったという。右方向への単打の延長が本塁打だった。

 95年にFAで巨人へ。移籍1年目まで2チームにまたがって9年連続で全試合出場も続けた。この間、ヤクルト時代の91年、93年に2度の打点王。巨人では不遇だったが、阪神を率いていた野村監督に「阪神を明るくしてくれ」と言われて2000年に阪神へ移籍した。

 主に代打だったが、勝負強い打撃で星野仙一監督2年目の03年にはリーグ優勝にも貢献。ダイエーとの日本シリーズでは3試合にまたがる5打席連続を含む6三振も、第7戦(福岡ドーム)では5点ビハインドの9回裏二死から代打でソロ本塁打。41歳6カ月での本塁打は日本シリーズ歴代最年長記録であり、この打席が現役最後の打席となる。阪神は日本一には届かなかったが、日本シリーズの大舞台で、この男らしい結果を残して、ユニフォームを脱いだ。

写真=BBM
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