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プロ野球1980年代の名選手

伊東勤 新たな時代を象徴した西武黄金時代の司令塔/プロ野球1980年代の名選手

 

1980年代。巨人戦テレビ中継が歴代最高を叩き出し、ライバルの阪神はフィーバーに沸き、一方のパ・リーグも西武を中心に新たな時代へと突入しつつあった。時代も昭和から平成へ。激動の時代でもあったが、底抜けに明るい時代でもあった。そんな華やかな10年間に活躍した名選手たちを振り返っていく。

優勝経験は14度


西武・伊東勤


 2018年に10年ぶり22度目のパ・リーグ制覇を成し遂げた西武。西鉄から太平洋、クラウンを経て、埼玉は所沢へ移転して西武となり、1982年に初優勝、日本一に。その後は連覇、日本一が続き、黄金時代といえるのは90年代の前半までになるだろうが、その後も数年に1度はリーグの頂点に立ってきた。

 40年の歴史で22度の優勝という数字だけでも、その強さが分かる。この間、優勝を経験したのは14度。不動の司令塔として頂点へと導いたのは12度を数える。ベストナインは10度、ゴールデン・グラブは11度。MVPは1度もないところが、この男の凄味を逆説的に物語る。不動の司令塔として西武を支え続けた伊東勤だ。

 熊本工高3年の夏に甲子園へ。のちのチームメートでもある秋山幸二がいた八代高を県大会の決勝で破っての出場だった。3回戦で敗退したものの、その熊本工の定時制に通っていた大型捕手を確実に獲得するべく、西武は策略を練る。3年目を終えた時点で所沢高へ転向させ、夜は定時制の4年生として通学し、昼間は西武の球団職員という肩書で練習に参加させた。そして81年のドラフト1位で指名。根本陸夫監督お得意の“寝技”だった。

 入団した82年は、根本監督がフロントに転じ、廣岡達朗監督が就任したシーズン。黄金時代の幕が開けると同時に西武の一員となったわけだが、出場は33試合にとどまり、中日との日本シリーズにも出場していない。西武が連覇を達成した翌83年は56試合。まだサインを出しても先輩の投手に首を振られまくっていたころだ。

 だが、巨人との日本シリーズには出場して、1勝2敗で迎えた第4戦(後楽園)でシリーズ初の先発マスク。これが98年まで続くシリーズ67試合連続スタメンマスクのスタートだった。そこから西武は巻き返し、3勝3敗の第7戦(西武)で初のフル出場を果たすと、西武は逆転の2年連続日本一。ただ、まだ21歳。ふつう優勝の瞬間は投手と捕手が抱き合い、そこへナインが加わってくるものだが、遠慮もあったのか歓喜の輪に入れず。マスクとプロテクター、キャッチャーミットを着けたまま、大喜びの先輩たちを輪の近くで眺める姿も印象的だ。

 84年はオープン戦で左手首を痛めたことから出遅れながらも、すでに司令塔の座は不動のものとなっていた。手首の不安を抱えながらも一軍へ合流。打っては10本塁打を放ち、初の規定打席にも到達した。特筆すべきは自己最多の20盗塁。捕手としてのパ・リーグ新記録だった。ずんぐりむっくり、という捕手像から、俊敏でスマートなものへと捕手像が移り変ろうとしていた80年代。その意味でも、新たな“球界の盟主”の司令塔は、時代も象徴していた。

西武黄金時代を築いたリード術とは?


 初のベストナイン、ダイヤモンド・グラブに選ばれた85年。日本一こそ“猛虎フィーバー”の阪神に譲ったものの、初めて司令塔として優勝に貢献したシーズンとなる。翌86年から3年連続で日本一に。88年の中日との日本シリーズでは、3勝1敗で王手をかけて迎えた第5戦(西武)、後がない中日も食い下がって試合は延長戦に突入したが、11回裏二死二塁で打席に入ると、クローザーの郭源治が投じた渾身のストレートをとらえて右翼へサヨナラ打を放って日本一を決めている。

 のちには94年4月9日、近鉄との開幕戦(西武)では、開幕戦では初めてとなる逆転サヨナラ満塁本塁打を放つなど、打撃では劇的な一打で存在感を放つ一方、プロ入り後に猛特訓したバントでも、9年連続を含む13度のシーズン2ケタ犠打、パ・リーグ歴代トップの通算305犠打。常にチームの勝利を最優先した姿は打撃からも見えてくる。

 多彩な投手陣とバッテリーを組むことで、捕球の技術やリードは磨かれていった。オーソドックスに打者の内角高めから外角低めへの対角線を使い、配球は投手が主体で、その日に調子がいい球を中心に組み立てる。サインが合わないときは投手の考えを優先した。

 2003年オフに現役を引退して、翌04年から監督に。レギュラーシーズンは2位で終えたが、導入されたばかりのプレーオフでダイエーを破り、そのまま就任1年目にして日本一に導いている。

写真=BBM
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