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変幻自在の栗山野球の秘密とは?

 

今季、日本ハム監督就任8年目を迎えた栗山英樹監督のタクトは例年以上にアグレッシブであり、大きな変化も見られる。6月20日現在、首位・楽天と2.5ゲーム差の3位。その采配から、栗山ファイターズの秘密を探っていこう。

データをフル活用


信念を持ってチームを率いる栗山監督


 三塁手が二塁手と一塁手の間に陣取っても誰も驚かなくなった。今シーズンから日本ハムが試みている大胆な守備シフト。主に左のプルヒッターで走者なしの場面限定だが、4月18日のオリックス戦(ほっと神戸)では吉田正尚が打席に入ると三塁手の横尾俊建が一、二塁間の後方で守るシフトを敢行。打球は一、二塁間を破られたが、横尾が走りながら捕球して一塁に転送。通常なら右前打が“三ゴロ”となった。

 栗山英樹監督は真顔で言った。

「誰が三塁手は三塁ベースで守りなさいと決めたの?」

 各打者の打球方向のデータから飛んでくる可能性の高い場所に守る人数を厚くしただけのこと。メジャーでは多くの球団が採用しているが、ここまで大胆に継続的に実施しているのは日本では珍しい。大胆なシフトを敷かれた選手がシフトを破ろうと自分の打撃を崩してくれれば、さらに効果あり。相手に考えさせ、プレッシャーを与えることができる作戦でもある。

 日本ハムは今シーズンから野球をあらゆる角度から解析するアナリストを3人から4人体制にした。札幌ドームや二軍本拠地の鎌ケ谷にも設置しているトラックマンなどで得られた膨大なデータを解析する部隊を強化したのだ。選手の個々の能力だけではシーズンを
勝ち抜くのは至難の業。野球におけるあらゆる数字をうまく勝利に結びつけられる“調味料”として首脳陣が常備し、特に采配する指揮官の判断材料が増えればチームを勝利へ導くスパイスとなることもある。

 栗山監督は「データは“どう読むか”が一番大事」と説く。投手と打者の組み合わせ、試合状況、カウントやバッテリーの配球などによっても細かく気付かないレベルでも守備位置を変えるなどしている。その成果もあって69試合消化時点で失策数は37。アナリストも含め、チーム一体で取り組んでいる有益なデータ活用もチームの好調を支えている要因の1つになっている。

フレキシブルな選手起用


今季は中田だけでなく四番に近藤を起用するなど、これまでのこだわりを捨てた勝つための起用に徹している


「選手の特長、力を借りて、チームを勝たせるのがオレの仕事」と常々語る指揮官。選手個々の能力、調子を見極めることが重要であり、そこに聖域を設けていないのが今シーズンの采配の特徴だ。

 昨季までは中田翔の四番に頑なにこだわってきたが、今季は状況によって“定位置”から外している。5月31日のオリックス戦(京セラドーム)ではスタメンから外して今シーズン初めて欠場させた。札幌からの移動ゲームで疲労軽減も考慮。5月24日から一軍復帰した清宮幸太郎の守備復帰にメドが立ったタイミングでもあり、休養日を与えた格好だ。四番に近藤健介を据え、中田は五番で起用した試合もある。各打者の調子や相手投手、全体的な打線の流れなどの複合的な要素を加味。一番点を取りやすい、四番だけでなく中田をより生かせると踏んだ打順に落とし込んだ。

 中田の起用法に見られるように例年以上に固定概念にとらわれない選手起用に徹している。ここまで全試合スタメン出場は大田泰示のみ。西川遥輝、近藤といった看板打者も適度に休ませている。ユーティリティーの杉谷拳士や若手成長株の平沼翔太の存在もあり、臆せず主力に休養を与えられる戦力の幅が広がっていることも大きい。

選手の特長をうまく足し算


開幕投手にはオリックスから新加入した金子を先発、ショートスターター、中継ぎで起用した


 投手陣も同様だ。先発は69試合消化時点で13投手を起用。昨季の同時期は10投手、シーズンを通しても15投手で、例年より先発を任せられる顔ぶれは豊富だ。その中には6月12の日の広島戦(札幌ドーム)でプロ初登板初先発で初勝利を挙げたドラフト1位の吉田輝星、同3位の生田目翼も名を連ねる。杉浦稔大上原健太などは登録抹消を繰り返しながら先発ローテーションに柔軟に組み込んでいる。若手の積極登用や各選手が持つ能力の最大値を引き出すための先発ローテの運用は、結果として投手陣の軸となる有原航平らの負担も軽減しながら戦えている。

 ブルペン陣も3連投は極力避け、各投手の調子を見極めながら、試合ごとの適材適所で起用。守護神が一向に定まらなくても一軍経験が豊富な投手も多く、大きな穴にはなってはいない。複数のポジションをこなせる投手も多く、全体的に結果も伴い出した現在は開幕時と比べても頼もしく、ハイブリッドなブルペンにレベルアップした。

 開幕時は金子弌大、加藤貴之ら先発投手が3イニングをメドに交代する「ショートスターター」という新戦術も採用。栗山監督は「ある選手がこの形だったら結果を出しやすいということもある。要するにそれぞれに特長がある。それをうまく足し算したいと考えているだけ。そうすると戦力として幅が広がる」と説明する。大谷翔平(現エンゼルス)のようなスーパーな選手はいないが、経験値がある実力者が多数いるのが今季の日本ハム。束になれば他球団には負けない自信があるからこその選手起用だ。

覚醒した投打のキーマン


移籍3年目の大田はすべての面でチームに欠かせない選手になった


 打線を引っ張っているのは二番に定着した大田だ。3割近くのアベレージに加え、13本塁打、20二塁打と長打力も発揮。右翼守備も安定し、走塁ではヘッドスライディングでナインを鼓舞。巨人から移籍3年目でもはやチームに欠かせない存在となった。

 投手陣では有原の復調が大きい。昨季までは心を乱して自滅することが多かったが、今シーズンはマウンドで落ち着きがあり、勝負どころでのギアの上げ下げも完ぺき。150キロ台中盤の直球に加え、右打者対策で新たに着手したツーシームが開幕から威力を発揮。「持っている力はこんなものじゃない」と指揮官がさらに発破をかける2人の大器が、ファイターズを上昇気流に乗せている。

写真=BBM
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