昨年、創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。現在、(平日だけ)1日に1冊ずつバックナンバーを紹介する連載を進行中。いつまで続くかは担当者の健康と気力、さらには読者の皆さんの反応次第。できれば末永くお付き合いいただきたい。 セーフかアウトか?
今回は『1969年11月17日特大号』。定価は80円。
日本シリーズは巨人、阪急の対戦となり、巨人が5年連続の日本一に。MVPは長嶋茂雄だった。
日本シリーズ史上初めて退場者が出したことで知られる年だ。
第4戦だった。発端は長嶋のハーフスイングだった。
4回裏、0対3と阪急3点リードの場面。巨人は無死で
土井正三が三塁、
王貞治が一塁にいて、打席は長嶋茂雄だった。
ここで長嶋は2ストライクからの内角高めのボールに手を出し、空振り三振かと思ったが、審判は回ってないとしてボールを宣告。すぐ真っ赤になった
岡村浩二捕手、さらにベンチから
西本幸雄監督も飛び出し、抗議をした。
それでも投手・宮本は気を取り直し、長嶋を三振に打ち取った、と思った瞬間、一塁の王がセカンドへ。岡村がセカンドに投げると、三塁の土井がホームに突っ込んできた。
阪急の二塁・山口はベース前で捕球し、すぐ本塁へ。これをつかんだ岡村が土井にタッチ。タイミングはアウトだったが、岡田主審はセーフの判定。岡村はすぐ岡田主審を殴り、退場。その後、西本監督らが飛び出し、岡田主審に猛抗議した。
岡村は言う。
「あんな無茶な判定はない。長嶋さんのハーフスイングは誰が見たって振ってるじゃないですか。その後、宮本もよう気を取り戻して、いい球投げてくれて、三振に取ってくれたのに……。
僕はなんのとりえもないキャッチャーやけど、ひとつだけ誰にも負けんものがあります。ブロックです。ですから絶対に自信を持ったプレーだったんです。あんなアウトは見たことありません」
試合は結局、逆転負け。途中、中沢を挟み、代わった捕手の岡田がわざと捕球せず、主審の岡田にボールをぶつけようとする暴挙もあり、大混乱の一戦だった。
試合後、西本監督は「巨人がホームをつけば全部セーフ、見逃しはボールにされるのではかなわん。あれがセ・リーグを代表する審判ということですか」と怒り心頭だった。
実際、球場で見ても、さらにテレビ中継で見てもアウトのように映り、報道陣も「誤審」で取材を進めていたが、翌日の新聞ですべてが一変。
写真でデカデカと、土井の左足がホームを踏んでいるシーンが映し出されていたからだ。
実は長嶋、岡村、土井はすべて立教出身。長嶋は、
「あれは浩二もかわいそうだった。ちゃんと打たなかったオレが悪いんだ」
と言っていた。
では、またあした。
<次回に続く>
写真=BBM