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県岐阜商高をセンバツ有力に導いた鍛治舎監督の4つの変革とは?

 

今秋の東海大会で準優勝


県岐阜商高・鍛治舍巧監督は前任の秀岳館高に続き、就任2年でセンバツ当確ラインへとチームを導き、卓越した手腕を発揮している


 3年で日本一。

 2018年3月から母校・県岐阜商高を率いる鍛治舍巧監督は、冒頭にある前任の秀岳館高(熊本)と同じ強化プログラムを掲げた。

 秀岳館高では14年4月に就任し、3年目の16年春から4季連続甲子園出場。16年春から17年春まで3大会連続で4強進出と、通算10勝4敗と強烈なインパクトを残した。

 県岐阜商高は今秋の東海大会準優勝。東海地区のセンバツ一般選考枠は「2」であり、優勝した中京大中京高(愛知)に次ぐ、2校目の選出を有力の立場としている(選抜選考委員会は来年1月24日)。今回も就任3年目に甲子園へ導こうとしているわけだが、前回とほぼ同じスパンで結果を出す形となった。

 その卓越した手腕は何なのか? 自らで「変革」と語った4つの取り組みを探ってみた。

 まずは、練習方法をガラッと変えた。授業がある平日の練習時間は秀岳館高の約半分の4時間であるが、ウォーミングアップに1時間以上を割く。ウエートトレーニングにも力を入れ、すべてを数値化して目標を設定する。投手は球速、野手もスイングスピードを計測して、数字を裏付けにレベルアップへ努めた。

 基礎的なフィジカル面が構築できれば「技術が劣っているわけではない」と、スキル向上にもつながった。部員は自宅通いのため、以前は「少しでも体を休ませる」目的で朝練習を実施しなかったが、鍛治舍監督は「全国レベルへ引き上げるためには、時間が足りない」と、朝7時から1時間、授業開始までを有効活用している。

 次に練習試合の相手を変えた。2018年1月の就任時、1年先の対戦校がすでに決まっていた。しかし、日本一を目指す上では、甲子園常連校と切磋琢磨することが必要と考え、同秋以降のビジター試合を組み替えた。地元東海の中京大中京高をはじめ、大阪桐蔭高、報徳学園高、近江高らの関西遠征に、星稜高、松商学園高など北信越の強豪校とも積極的にマッチメーク。全国レベルを体感しない限りは課題も見つからない。効果は絶大だった。

 県岐阜商高は戦前に春3回、夏1回の全国優勝を誇り、通算56回の出場で、87勝は全国歴代4位。公立校ではトップの数字であるが、高橋純平(現ソフトバンク)を擁した2015年春以降は甲子園から遠ざかっている。

 就任当初のミーティングで、鍛治舍監督は「甲子園で勝つためには……。甲子園で優勝するためには……」を力説した。ところが、部員としては、あまりにかけ離れた目標だったため、指揮官の思いは届かなった。「強豪」ではなく「古豪」の意識。それが、現実であった。

野球部創部100周年までに「全国100勝」


 約1年をかけてテコ入れを進め、最も刺激的な「変革」に着手した。3つめはユニフォームの変更。1924年の創部から続いた伝統のユニフォームをリニューアルしたのだ。

 旧デザインは白地に濃紺で「GIFUSHO」の胸文字に、帽子は「G」マーク。ストッキングは濃紺に白の2本線で、アンダーシャツも濃紺と、古豪らしいシンプルな形だった。新デザインは白地に橙色で「GIFUSHO」の胸文字。ストッキングも橙色にロイヤルブルーの線が入り、帽子も青にして「Ken Gifusho」の二段使い。アンダーシャツもロイヤルブルーと鮮やかなになった。鍛治舍監督が過去に在籍したパナソニック、枚方ボーイズ、秀岳館高と似ている。現場トップの意向と覚悟が反映された。

 今春の東海大会から採用され、来春のセンバツ出場が決まれば、胸文字の「GIFUSHO」は遠くからでも見やすくするために、橙色からロイヤルブルーに微調整される方向だという。

「変革により、軋轢が生まれるのは承知の上。中途半端では間に合わない。ユニフォームは当然、OB会とも事前に調整を進めましたが、外からの批判よりも、内側、つまり、子どもたちのほうが再優先。現状維持は後退を意味する。前を向き、進んでいかないといけない」

 最後に、部員確保。

 岐阜は有力中学生の県外流出が切実な問題だという。県岐阜商高はこれまで「スカウト活動」をしてこなかったが、鍛治舍監督の就任以降、週末はコーチらを各試合会場などに派遣。軟式、硬式チームへのアプローチを強化し、今秋の「東海準優勝」も、地道に足を運んだ成果にほかならない。

 2024年の学校創立120周年、野球部創部100周年までに、甲子園で13勝を積み上げ「全国100勝」に到達するのが目標だ。当然ながら「3年で日本一」も譲れない。

「紆余曲折もありながら、ほふく前進のように一歩、一歩進んできた。センバツの選出が決まれば、そこがファーストステップ。自分たちの野球ができるのか、楽しみ。今のマインドからすると、やれるのでは……」

 不敵な笑みを浮かべる68歳。「鍛治舍イズム」が浸透した伝統校の復活劇はあるのか――。根拠のない自信は絶対に口にしないだけに、不気味な存在であることには間違いない。

文=岡本朋祐 写真=田中慎一郎
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