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“4冠”に狙いを定める中京大中京高・高橋宏斗。弟の努力が実を結ぶ瞬間を心待ちにする兄

 

兄の背中を追い慶大進学希望


中京大中京高の148キロ右腕・高橋宏斗の兄・伶介は慶大野球部に在籍した


 毎年元旦、高橋家では「正月キャッチボール」を行っている。2020年1月1日。149キロ右腕である兄・高橋伶介の左手は年明け早々、真っ赤になった。

「見違えるようなボールを投げていた。見た目にも大きくなっていました」

 相手は弟・高橋宏斗である。この1年で大きな心身の成長を感じたという。中京大中京高の148キロ右腕は昨秋、県大会、東海大会、明治神宮を制し「秋日本一」を飾ったプロ注目投手だ。「ドラフト上位候補」と言われる好素材も、高橋は現段階で「大学進学」を明言している。第一志望は、兄が在籍した慶大だ。

「私から勧めたことはありません。昨年8月28日、ナゴヤドームでの全早慶戦に登板し(2対1とリードした7回から救援して三者凡退の1イニング無失点)、弟も観戦しました。特別な思いもあったようで『大学へ進学するなら、慶應に行きたい』と言っていました」

 慶大には中京大中京高出身者として助監督に竹内大助氏、現役学生にも左腕・長谷部銀次(新4年)が在籍。OBには元監督の江藤省三(当時・中京商)、伊藤隼太(現阪神)ら、同校と慶大とのつながりは深い。とはいえ、スポーツ推薦入試がない。慶大の門をたたくには一般入試、指定校推薦などがあるが、高橋はAO入試(一次・書類審査、二次・面接)での挑戦が現実的と言える。超難関であり合格する保証はどこにもないが、高橋宏本人は覚悟を決めているという。

 兄は愛知から慶應義塾高(神奈川)へ進学し、親元を離れた。中学時代に在籍した豊田シニアでは全国大会初優勝。NHKで見た早慶戦を通じて慶大にあこがれを持ち、推薦入試を受験した。競技実績に加えて、9科目で中学校の評定45満点中38が条件であるが、高橋伶は「42」の超秀才だった。難関入試を突破し、1年夏からベンチ入りも、3年間で甲子園に届かず。同期のエースには津留崎大成(慶大−楽天3位)がおり、高橋伶は背番号10でエース番号を着けることはできなかった。

「一貫教育校」で内部進学した慶大では1年秋、東大とのカードで2試合ベンチ入り。登板機会がないままベンチから外れると、10月に右ヒジを痛める。2年時は春のフレッシュリーグで全5試合に登板すると、秋のフレッシュトーナメントでも先発。しかし、現実は厳しい。「新人戦とリーグ戦では圧倒的な差がありました。結果的に1年秋がピークになった」と4年間、リーグ戦登板を果たすことはできなかった。

「野球人生を悔いなく終われる」


 4年秋。最後の最後まで「KEIO」のユニフォームをあきらめなかった。打撃投手などでAチームの練習をサポートする選択肢もあったが、高橋伶は現役の道を貫いた。Bチーム(二軍)として「下級生がいかにモチベーションを上げられるか、姿勢を示してきたつもりです」と、25人のベンチ入りメンバーを目指し、言葉と行動で練習を引っ張った。

 チームは昨秋、3季ぶりのリーグ優勝、19年ぶりの明治神宮大会制覇で有終の美を飾った。「日本一は、4年間目指していた目標。野球人生を悔いなく終われる」。1月18日、東京都内で行われた優勝祝賀会で、高橋伶は充実した表情を見せた。つまり、兄弟そろって、大学の部と高校の部で頂点に立つ偉業を遂げたのである。大学卒業後は東京海上日動火災保険へ就職する。

「一生懸命取り組んだ野球のエネルギーを、仕事に注ぎたい。親には負担をかけてきましたので、自立して、返していきたいと思う」

 1月24日は選抜選考委員会。昨秋の東海大会王者・中京大中京高の出場は「当確」だ。弟の努力が実を結ぶ瞬間を、兄は心待ちにする。

「甲子園は家族の悲願。プレッシャーはあるかと思いますが、応援していきたいです」

 弟はタイトル4冠(明治神宮大会、春・夏の甲子園、国体)を狙いに定め「世代No.1投手」を目指しているという。同じ右投手である兄は今後も、高橋宏にとって最も身近で、頼りになる相談相手となるはずだ。

文=岡本朋祐 写真=BBM
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