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プロ野球20世紀・不屈の物語

下関から川崎へ、どん底から初優勝へ。大洋ホエールズの原点/プロ野球20世紀・不屈の物語【1950〜60年】

 

歴史は勝者のものだという。それはプロ野球も同様かもしれない。ただ我々は、そこに敗者がいて、その敗者たちの姿もまた、雄々しかったことを知っている。

創設6年目で球史の“どん底”へ


 家から一歩も表に出なくても他者とコミュニケーションが取れる世の中になったことをあらためて思い知らされる今日このごろ。いい世の中になったかどうかは意見の分かれるところだろうが、便利な世の中になったということには異論は少ないだろう。ただ、他者との距離が、離れれば離れるほど、絶対的なハンディキャップとなっていった時代は確かにあった。

 かつてのプロ野球も同様だ。1リーグ時代、チームの拠点は東京、大阪、名古屋の三大都市圏が中心。他の地域を拠点としたチームには、どうしても不便、不利がつきまとった。2リーグ分立の1950年、山口県は下関に誕生したのが大洋ホエールズ。現在の横浜DeNAベイスターズだった。親会社は大洋漁業、現在のマルハニチロで、当時の資料にも「まるはホエールズ」と書かれているものがある。その本社が下関にあった。もともと社会人の強豪だったのだが、プロ球団に主力を引き抜かれたことに憤慨してのプロ参戦でもあり、いきなり戦力不足に悩まされる。

 新規参入チームの多くが既存チームからの苛烈な引き抜き合戦が繰り広げていた時期。これに加わって“引き抜き返し”をしようにも、開幕までの限られた時間で、ロケーションがハンディキャップとなったことは想像できる。それでも、地元出身で、巨人で“塀際の魔術師”と呼ばれた名外野手の平山菊二らを獲得して戦力を整え、迎えた50年シーズンはリーグ8チーム中5位ながら勝率.504と健闘。だが、以降10年間で勝率5割を超えたのは、この50年が最後となる。

 53年には松竹と合併して洋松ロビンスに。このとき「勝率3割を下回ったチームは合併させる」とのオーナー合意があり、これに該当したのが松竹で、その“受け入れ先”となったのが大洋だった。これで大洋は、下関を準本拠地として、松竹が拠点を置いていた京都へ移転する。だが、初の最下位に沈んだ54年オフに松竹が経営から撤退。このとき新天地としたのが、神奈川県の川崎球場だった。人口の母集団が少ない下関では、どうしても集客に限界がある。その後も下関では主催試合が開催されたが、川崎への移転は球団の存続を懸けた突破口だった。しかし、チームの低迷は続く。迎えた55年は31勝99敗、勝率.238。川崎の初年度は2リーグ制で最悪の結果として残る、どん底だった。

6年連続の最下位から一気に頂点へ


1960年、初の日本一に輝いた大洋/中部謙吉オーナー(左)、三原脩監督


 以降、さすがに勝率は下回ることはなかったが、最下位は続く。59年まで6年連続で最下位。ただ、この間も球団は、ただ手をこまねいているわけではなかった。56年には明大から秋山登土井淳のバッテリーを獲得。58年には同じく明大から好打者の近藤和彦が加わり、戦力も整いつつあった。さらに、その58年、球団は西鉄の三原脩監督と接触している。西鉄に黄金時代を築いた名将だが、このシーズンの西鉄は低迷。球団との確執に発展していた。最終的に西鉄は逆転で3連覇を果たし、日本シリーズでも巨人を3年連続で撃破。その祝勝パーティーで三原監督は球団に辞意を伝えた。だが、これが新聞で報じられ、西鉄ファンが猛抗議。当然、西鉄ナインも猛反対して、名将の招聘は頓挫した。それでも翌59年、西鉄が優勝を逃すと、三原監督は退任。満を持して大洋の監督に就任する。

 迎えた60年。開幕戦の試合前にはノックのバットが大洋のベンチに飛び込み、それをエースの秋山が頭に受けて離脱する最悪のスタートを切ったものの、秋山が復帰してからは、いわゆる“超二流”の選手たちも持ち味を発揮していく。いくら三原監督であっても、まずは最下位からの脱出が目標と思われたチームが、次々に接戦に競り勝って、最終的には70勝56敗4分、勝率.554。勝率5割を突破するのはチーム10年ぶり2度目のことだったが、これで6年連続の最下位から初優勝へと駆け上がった。大毎との日本シリーズは史上初の4連勝での日本一。その4試合すべてが1点差での辛勝だった。

 ちなみに、大洋は日本一の祝賀パレードで下関に凱旋。市民も祝福に駆け付けた。ただ、これは次の歓喜までの、長い雌伏の時間が始まった瞬間でもあった。

文=犬企画マンホール 写真=BBM
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