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球界の論点

コロナ禍を経てスーパースターが誕生する土壌ができるか?/球界の論点

 

ファンの存在を再認識する選手


常にファンの存在を意識してプレーした巨人時代の長嶋茂雄


 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、プロ野球の先行きは不透明なままだ。開幕の可否決定は5月下旬の見込みで、ペナントレースは早くても6月からとなる。最悪、中止の可能性も低くない。劇的な治療薬や予防薬(ワクチン)の開発が待たれるが、社会が落ち着くまでにはもう少し時間が必要だろう。一日でも早く正常化し、プロ野球がファンに笑顔を届けられるようになってほしい。

 想定外の事態に操業停止を強いられているプロ野球界だが、選手や球団は手をこまねいてはいない。「アフターコロナ」を見据えながら、新たな手法を用いるなど工夫を凝らして情報を発信している。

 阪神は4月15日、甲子園球場などで約3週間ぶりの自主練習を開始した。練習後、福留孝介はオンラインでの代表取材で、「久しぶりに球団の施設を使わせてもらい、体を動かせたのがうれしい」とホッとした表情を見せた。細かくグループ分けした各選手の距離間を保ち、一般社会でも大きな課題である「3密」を徹底したトレーニング内容を説明した。

 阪神は藤浪晋太郎ら所属3選手の感染が3月末に発覚し、活動を休止した。球界最年長の福留は、再開に際して「自分たちのチームから感染者が出てしまったことに申し訳なく思っている」と陳謝。コロナ禍に苦しむファンに向け、「一刻も早くこの事態が収まることを祈っている。今は一人ひとりが我慢をする時だと思う」とメッセージを送った。チームは今後、5月7日の全体練習再開を目指していく。

 ソフトバンク松田宣浩が自身のインスタグラムで発した「熱男リレー」が、野球界だけではなく、他競技プレーヤーや芸能人の間にも広がりを見せている。松田宣は「世界中が厳しい状況になっている。みんなが一つになれればいい」と語り、併せて「手洗いやうがいをして、家から出ない。そうすれば、コロナには負けない」と呼び掛けている。

 未曾有のコロナ禍に襲われ、プロ野球界全体に危機感がにじむ。興行としての試合ができず、今後の球界には計り知れないダメージが待っている。大歓声を浴びるのが当たり前と思っていた選手たちも、支えてくれたファンという存在の大事さを再認識している。国民全体の命と生活を守るのが精いっぱいな状況で、「野球どころではない」という声も少なからずある。それでも、松田宣が「今、自分で何ができるのか」と自問自答して発信したように、プロ野球選手にも社会貢献ムードが出てきたことを歓迎したい。

新たなエンタテイメント性を持つ選手像


 2005年の球界再編をきっかけに、プロ野球では地域密着が浸透。インターネットツールをうまく活用し、特に若年層のファンとの距離が縮まった。政府やテレビや新聞などが感染防止法等を繰り返す以上に、新手で社会とのつながりを持とうとするプロ野球選手の訴求力は高いはずだ。

 戦後復興を経て、高度経済成長を支えた人々の元気の源としてプロ野球が果たした役割は大きい。長嶋茂雄、王貞治らスーパースターは自覚とプライドを胸に、「どうしたらファンに喜んでもらえるか」を常に意識し、期待に応え続けた。プロ野球には難局に立ち向かう人々に活力を与える力がある。

 平成時代にはメディアと自己発信を嫌い、「結果がすべて。プレーだけでアピールすればいい」という選手が出てきた。実入りのないグラウンド外の出来事には一切反応しないという姿勢は、プロフェッショナルとしての一つの考えだろう。しかし、時代は流れ、SNSなど双方向のやりとりが可能となったことも追い風となり、新たなエンターテインメント性を持つプロ野球選手像が整いつつある。球界全体の意識が変われば、単なるプレーヤーにとどまることなく、渇望されているファンに愛されるスーパースターが誕生する土壌ができてくる。
 
 福留は「選手が笑顔でプレーし、ファンがそれを笑顔で見つめる日がきっと来る」と訴える。暗くて長いトンネルもいつかは必ずくぐり抜けることができ、ピンチをチャンスに転じることができる。ファンにとって、いかに「特別な存在」として価値を高めることができるか。それがコロナ禍を経験したプロ野球に求められる使命となる。

写真=BBM
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