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プロ野球20世紀・不屈の物語

九州ライオンズ“黒い霧”払拭の戦い/プロ野球20世紀・不屈の物語【1969〜78年】

 

歴史は勝者のものだという。それはプロ野球も同様かもしれない。ただ我々は、そこに敗者がいて、その敗者たちの姿もまた、雄々しかったことを知っている。

若者の未来をも覆った“黒い霧”


西鉄・池永正明


 1969年10月、突如として勃発した“黒い霧事件”。当時、プロ野球の公式戦を反社会勢力が賭博の対象としており、そのために選手が公式戦で敗退行為、つまり八百長を働いた事件だ。20世紀のプロ野球における最大の汚点として残る、その事件の顛末については触れない。ただ、こうした行為は何も生まないどころか、多くのものを失う最悪の結果だけを呼ぶ。21世紀にも同様の事件があったが、もちろん、二度と繰り返してはならないことだ。歴史の暗部から目をそらさず、何かを学ぶ姿勢は、常に必要なのだろう。

 事件の発端となったのは西鉄の選手。西鉄は当時、九州で唯一のプロ野球チームで、50年代に4度のリーグ優勝、56年からは3年連続で巨人を破って日本一に輝き、黄金時代を築いたものの、63年を最後に優勝から遠ざかっていた。この事件は、そんな西鉄の“致命傷”となる。

 まずは戦力的なダメージだ。実際に敗退行為を行った選手が処分されるのは当然のことだが、国会をも巻き込む騒動に発展した事件は、八百長には関与せず、現金を預かっただけの選手、球団への報告を怠った選手の処罰をも必要とした。処分が決まったのは70年5月。テスト生から這い上がって1年目の67年から一軍に定着し、翌68年には不動のレギュラーとなった二塁手の基満男は厳重注意のみだったが、66年に巨人から移籍してきて安定感を増していたリードオフマンの船田和英と、69年に正捕手の座をつかみかけていた3年目の村上公康は、シーズン限りの出場停止に。それだけではない。先輩から執拗に頼まれ、きっぱりと断りながらも、「これ(現金)をしばらく預かってもらわんとワシの命が危ない」と言われて預かり、すでに返していたにもかかわらず、八百長を行った選手と同じ永久追放となったのが池永正明だった。

 下関商高2年の春にエースとしてセンバツを制覇、西鉄1年目の65年に20勝を挙げて、以降5年で99勝を積み上げた若き右腕。抜群の知名度を誇るエースに対する厳罰は、一罰百戒の効果を考えた“見せしめ”とも言われる。これが悪循環の始まりだった。西鉄は71年まで2年連続で最下位。低迷を続けた西鉄は、九州は熱狂的なファンも多い土地柄ながら、そんなファンにも見放される。観客は激減し、当然、入場料による収入だけでなく、広告収入も大幅ダウン。満足な補強もできず、ますますチームは弱体化していく。

流転のライオンズ


太平洋クラブ・加藤初(左)、東尾修


“黒い霧”の払拭には、さまざまな改革、それも、存在の根底から覆していくような変革が必要だったのだろう。3年連続で最下位に沈んだ72年、ついに西鉄は、その歴史に幕を下ろす。翌73年には太平洋クラブライオンズとして再出発。ユニフォームも一新して、心機一転を図る。ただ、ひとたび失った信頼を取り返すのは難しい。ロッテとの“遺恨試合”騒動で観客を呼び戻し、なんとか4位に浮上したものの、時には機動隊をも出動するような“裏技”は長続きするはずもなく、チーム順位も76年には最下位に逆戻り。その翌77年にはクラウンライターライオンズとして再々出発したが、それも2年しか続かず、78年オフには球団の売却、そして埼玉は所沢への移転が決まった。

 ただ、収穫もあった。その筆頭は、戦力難に苦しむチームで未完成ながら抜擢され、負けまくりながらも実戦経験を積んでいった東尾修の成長だろう。東尾は所沢で西武として生まれ変わったライオンズをエースとして引っ張り、新天地で黄金時代を築いていくことになる。

 一方で、“黒い霧”に飲み込まれた才能あふれる若者たちだが、西鉄ラストイヤーを待たず、72年から船田はヤクルトで、村上はロッテで再出発。村上は74年に、76年にカムバック賞を贈られた船田も78年に、それぞれ新天地の日本一にも貢献している。残った基は、その西鉄ラストイヤーの72年に初のベストナイン。所沢への移転とともに大洋へ移籍して、80年にもベストインに選ばれた。だが唯一、なかなか“黒い霧”が晴れなかったのが池永だ。豊田泰光稲尾和久ら西鉄OBの復権運動も、なかなか実らず。処分が解除されたのは21世紀に入ってからだった。

文=犬企画マンホール 写真=BBM
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