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球界の論点

異例のシーズンで思い出す野茂英雄が繰り返していた言葉/球界の論点

 

「コンディショニングの難しさを痛感」


ドジャース時代の野茂英雄


 新型コロナウイルスの影響で延期となっていたプロ野球開幕が6月19日に決まった。日本野球機構(NPB)は5月25日、オンラインで12球団の代表者会議を行い、残り5都道県の緊急事態宣言の解除を踏まえ、約3カ月遅れでスタートする方針で合意。6月初旬からの練習試合をはじめ公式戦も感染リスク回避のために当面は無観客となるが、段階的に観客を増やすなど通常開催に近づける考えだ。

 待ちに待った2020年シーズン。感染予防の徹底など課題は山積だが、ファンにとっては何よりの吉報だ。「社会が一つとなってコロナウイルスと闘ってきたからこそ開幕を迎えることができる」と巨人原辰徳監督が喜びを表したように、国民的スポーツであるプロ野球が苦難に立ち向かい、明るい時代を拓く象徴的存在となってほしい。

 今シーズンはプロ野球の楽しみ方も大きく変わりそうだ。チームの全体練習をはじめ多くの制限をかけられた前代未聞の環境下で、各選手がいかに調整を続けてきたか。その結果が、イレギュラーな開幕で浮き彫りになるはずだ。

 4年連続日本一を目指すソフトバンク工藤公康監督は、「待ち望んでいる開幕に向けていい調整をしたい。素晴らしいプレーを見せたい」と意気込んだ。リーグ3連覇と日本一奪回を狙う西武辻発彦監督は、「明確な目標が定められたので、そこに向かって調整するだけ」――。他チームの監督もそれぞれ「調整」というフレーズを口にする。ペナントレースがいよいよ始まるといううれしさと同時に、想定外のブランクが与えた影響への不安も抱いている。

 日本を飛び出し、メジャー・リーグでの1年目で13勝6敗と活躍した野茂英雄が、そのオフの凱旋帰国した際に強調したのが、体調維持の大切さだ。「コンディショニングの難しさを痛感した。年間を通じて、また何年にわたっていかにベストのピッチングができるかどうかは、コンディショニングに懸かっているというのが分かった」と何度も繰り返した。

 プロとして高いスキルを持っているのは当たり前。しかし、線香花火のように消え去る選手は多く、高いレベルのパフォーマンスを継続して見せられる選手は数えるしかいない。それを実践できる選手が一流であり、カギを握っているのがアスリートとしてのコンディションを整えるためのノウハウだと、本場の舞台に挑戦して成功したパイオニアは説く。

これまで以上の柔軟性と対応力


 メジャー・リーグの公式戦は160試合以上。長距離移動による時差ぼけや疲労、寒暖差の激しさ――など、厳しさは日本とは比べものにならない。それまでの日常ではない事態に対応し、ハイレベルのパフォーマンスを発揮できる準備ができるかどうかも、プロとしての能力だ。イチロー黒田博樹らも自身の特性をしっかりと把握した上でのコンディショニングに長けていたからこそ、一線級で結果を出し続けることができた。

 イチローはポケットマネーで2000万円以上とも言われる専用器具を購入し、独自のトレーニングを励行。黒田は毎日のブルペンでの投球数を決め、投球後に独自で確立したクールダウン法を厳守した。ゴルフや他競技でもありがちだが、トレーニングをはじめ体系化された日本では結果を残せても、環境変化の激しく、個々人の自主性が必要な海外で苦しむケースが多い。本場の舞台に身を投じたトップアスリートの成功の裏には、非常事態にも動じることのない質の高い体調維持がある。

 オープン戦途中で自粛を強いられ、それぞれのオフを過ごした選手のパフォーマンスはどうなのか。これが異例な幕開けとなったペナントレースの一つの見方になる。実績のあるトッププレーヤーが、これまで同じく額面どおりの結果を出せるとは限らない。第2波、第3波と感染状況は不透明で、これからのセルフケアへの意識も必須となる。これまで以上に柔軟性と対応力の高さが問われるシーズンとなりそうだ。

写真=BBM
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