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慶大が練習再開――堀井監督が「選手が大人になった」という背景は?

 

WEB会議で選手の声を吸い上げる


慶大・堀井監督(背番号30)は6月8日、活動自粛明けの練習を見守る。ユニフォームを着てイキイキと動く部員の姿に、あらためて野球ができる感謝を口にした


 慶大野球部は新型コロナウイルスの感染拡大を受け、3月28日から全体練習を自粛。緊急事態宣言の解除を受け、6月8日に活動を再開した。全体を3班に分けて9時、12時、15時でメニューを消化。学校はオンライン授業が続いており、当面はこの形が続く。

「社会情勢はピンチが続いていますが、大学から許可が下りました。野球ができることに、選手たちはハツラツとしていて、意欲を感じました」(堀井哲也監督)

 この期間は決してマイナスではなかった。堀井監督はむしろ、プラスだったと振り返る。

「将来の目標と向き合った選手は、大人になった気がする。この世の中の情勢の中で、考える視野が広がり、深まったと思います」

 もともと、慶應義塾の創立者である福澤諭吉の「独立自尊」が浸透している意識高い集団。自ら立案し、考え、行動することに長けている。この自粛期間、部員幹部の発案により全174人によるオンラインミーティングを実施。5月からは週1回、堀井監督が野球と組織を考えるためのテーマを与え、約10人によるグループディスカッションを展開した。「監督は絶対か」「過程と結果はどうか」「負けない野球とは」を題材に、部員に議事録を提出させた後、監督としての見解を述べる作業を繰り返した。

 瀬戸西純主将(4年・慶應義塾高)は「監督は絶対か」について、こう述べている。

「やるのは選手。監督が絶対になってしまうと、ゲームの中でのミラクル、巻き返すことができない。選手が中心となってやっていく中で、監督のアドバイスを受けることがチーム力になる」

 これまでも慶大は選手間ミーティングに重きを置き、チームの「和」を大事にしてきた。WEB会議という「新しい部の運営様式」でより多くの部員の声を吸い上げることができた。1年生でも意見を言えるのが、慶大の風通しの良さ。また、リーグ戦メンバーであるAチーム以外の部員からの胸中も聞ける、新鮮で貴重な機会だったという。

「部員一人ひとりの考える力。慶應はそういうところで差をつけないと、甲子園経験者を多く抱える他大学には太刀打ちできない」(瀬戸西主将)

神宮に立つことへの強い覚悟


 東京六大学春季リーグ戦は当初の4月、5月末から開幕が再延期され、8月中旬を目指しているのが現状だ。かつてない夏場の開催で、1試合総当たり(計5試合)の変則日程が組まれ、約10日間で消化される予定だ。

 堀井監督は昨年11月までJR東日本を15年率い、都市対抗優勝1回、準優勝3回。今回のリーグ戦も「短期決戦」と位置付けている。一発勝負のトーナメントである都市対抗と同様、5試合を戦うためには「ヨーイドンの1試合では、チーム力がないと5校から勝ちを得ることはできない。本当の意味での心・技・体の組織力が試される」と分析。慶大は昨季の優勝校で「秋春連覇」がかかる。

「天皇杯を取りにいくことが最大の目標。多くの関係者の尽力によりその場が用意され、選手の士気は高まっている。天皇杯が下賜される意味、歴史を振り返る時間でもあった(1競技につき1つ)。この環境に甘えず、責任を持ってプレーする。下手な試合はできない」

 指揮官に指示されるまでもなく主将・瀬戸西はさらに、強い覚悟を持っている。

「開催の可能性を残しているこの春のリーグ戦は、意味が深い。普通のリーグ戦ではない。学生スポーツを先導する振る舞いが必要となってくる。チームで共有していきたい」

 大学野球はほとんどの春季リーグ戦が中止となり、高校野球は夏の甲子園が79年ぶりに中止。社会人野球も、日本選手権が中止。アマチュア野球界で数少ない「公式戦」のステージを踏める感謝を込めて、神宮に立つ準備を粛々と進めていくつもりだ。

文=岡本朋祐 写真=BBM
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